さて、噛むことは、顔の骨や筋肉の成長に重要な役割を果たしていますが、噛む力(咬合力)というのはいったい何kgぐらいあるものなのでしょうか?

人間の最大咬合力(咀嚼筋の筋力) はおおむね体重程度で、男性の平均瞭合力は1㎠
当たり約60kg、女性は約40kgです。

一般に、私たちが食べやすい食品とは、噛むときに加わる力が最大岐合力の25〜30%に収まっていることが目安となります。普通、食事をするときには、どの程度の力で噛んでいるのでしょうか?

食品ごとに必要な咬合力を数値化すると、たとえば、せんべいで1㎠当たり約14kg、ピーナッツで約12kg。みりん干しを噛むのには36kgの噛む力が必要ですが、ハンバーグやラーメンはそれぞれ2kgと0.6kgとなり、食品によって必要な瞭合力はこんなにも違います。

阻噛するときは、これだけの力が歯と歯ぐきにかかっているわけで、この力に耐えられる歯と歯ぐきの健康を維持しておかなければならないということです。

あごの力が弱くなっていれば、当然、咬合力も低下します。また、自分の歯を失い、総入れ歯になった場合では、咀嚼能力はふだんの35 %程度になってしまい、体重60kgの場合なら、最大咬合力は21kg程度にまで下がってしまうのです。

これでは、硬い食品を避けたくなるのも無理はありません。それでは、咬合力が強ければ、食物をおいしく食べられるのかというと、必ずしもそうではありません。

咬合力はあくまでも口の中に入ってきた食物を粉砕する力です。食物が口の中に入ってくると、前歯で切断する、臼歯ですり潰すなど、多様な咀嚼を展開しておいしさを味わうと同時に、噛んでいるという情報を刻々と脳に伝達します。

そして、その時間が長いほど、あるいは噛む回数が多いほど、脳神経細胞の活性化が効果的に起き、おいしく食べることができるのです。一般に、噛みごたえのある食品のほうが脳への人力情報が多くなり、やわらかくすぐ飲み込める食品は脳の活性化のチャンスを少なくします。つまり、普通の噛みごたえのあるものをよく噛んで食べることが脳の活力を維持するのに大切だということになります。

元気に楽しく飲んでいますか? といってお酒をイメージした人にはごめんなさい。唾液の話です。

みなさんは、1日に自分自身の唾液をどのくらい飲んでいるかご存知でしょうか? 口の中に分泌された唾液はすぐに飲み込まれてしまいますので、ほとんど知られていませんが、みなさんの想像をはるかに超える量が分泌されています。

寝ているときは、唾液の分泌は毎分0・1 mlと非常に少ないのですが、起きているときは、安静時でも就眠中の3倍の毎分0.3mlに増加します。

そして、さまざまな食品を使った研究により、食事中の平均的な唾液分泌は毎分4mlに増加、したがって、1日当たりの唾液量は約500~600ml程度(お銚子3 〜4本)と概算することができるとされています。

しかし、唾液分泌量は、個人差、生活環境、健康状態、年齢などによって大きな差異がありますので、1日1500~1800ml(お銚子8〜10本)といった報告もあります。

普通、食物をあまり噛まずにすぐ飲み込む人より、よく噛んでゆっくり食べる人のほうがはるかに多くの唾液を分泌し、飲み込んでいます。嚙めば嚙むほど唾液は出ると考えて間違いありません。

すなわち、噛めば噛むほど、唾液の持つパワーの恩恵を受けられるのです。味や香りによって微妙に分泌が調節されていますが、歯ごたえのある食物、お酢、梅干しやスパイスの効いた食物なども当然、唾液の分泌を促進します。

また、ガムも非常に効果的です。ガムの噛み始めでは安静時の約8倍(味のないガムベース) から20倍(6種類のチューインガムの平均値)の唾液が分泌されますが、長時間(十数分)噛んでいても、安静時の2 〜3倍の唾液が分泌されるという研究があります。

普通、食物をあまり噛まずにすぐ飲み込む人より、よく噛んでゆっくり食べる人のほうがはるかに多くの唾液を分泌し、飲み込んでいます。噛めぼ噛むほど唾液は出ると血液中には、人体に有用な成分がたくさん含まれています。細菌に抵抗する成分、消化を助ける成分、昧をよくする成分、血管や胃などの細胞を増やす成分などで、噛むことで分泌された唾液は、体の機能を高めてくれます。

必要以上のものは体内から流れ出てしまいますから、多ければいいというわけではありません。しかし、適量以下では障害が起きます。それを防ぐためには、よく噛んで食ベることです。

よく噛んでいれば、ちゃんとその人の健康に応じた量の唾液が分泌されるようになっているというのが、人間の体のすばらしさです。ファストフードや、やわらかいグルメ食では唾液は十分に分泌されません。より噛みごたえのある、古くから伝わる健康に関する英知が詰まった伝統的な郷土料理などをじっくり堪能してみませんか?

唾液のお話の最後に、1つだけお伝えしておきたいことがあります。それは、年齢を重ねると唾液の量が少なくなることがあるということです。これは、唾液腺の老化も原因の1つですが、それよりもむしろ、ふだん服用している薬に主原因があるようです。

体の不調や障害に対して多くの薬が効果を発揮しますが、多くの薬は唾液の分泌量を少なくしてしまうことがあるのです。唾液量が少なくなると虫歯になりやすくなったり、がんなどの原因になったりすることがあります。慢性疾患などで常用している場合でも、人間が本来持って生まれた体を守る機能を大切にして、薬はできるだけ必要最小限にとどめるよう心がけたいものです。

きれいで魅力的な顔の人は、どんな特徴があるのでしょうか?それは、一言で説明するのは難しいのですが、簡単に言えば、表情がとても豊かだということです。

顔のきれいな人は、きれいな歯でしっかり噛んでいます。噛むことで頭蓋骨がバランスよく成長するとともに、顔の表情をつくる筋肉が鍛えられて、美しい笑顔が生まれます。

また、噛むことで分泌される唾液からのホルモンも「美人の条件」です。顔の皮膚細胞の代謝を活発にして、張りのある美しい肌を保てるからです。よく噛んでいる女性は、スリムで美肌といっても過言ではありません。

前述の上竣成長因子は、皮膚や粘膜、血管など多くの細胞の増殖を促し、細胞の新陳代謝を活発にして、皮膚の内部から活力のある美肌形成を促進させます。よく噛むことは、唾液分泌を促進させるので、健康美人になるための条件だといえるでしょう。

男性も無関係ではありません。青年期の雄マウスの唾液腺を摘出すると、なんと28日間で睾丸内の精子数ならびに生殖能が急激に低下することが、米国泌尿器学会の機関誌に発表されました。

そして、これらの生殖機能の減退は、上皮成長因子の投与で回復することが確認されました。唾液腺摘出後、29日目の睾丸100 mg中の精子の数は約1500万個で、正常値の約25%減少しました。

また、本来、精子は活発に動き回りますが、この運動能も約70%低下していました。そして、唾液腺を摘出した雄マウスは妊娠可能な雌マウスと一緒にしても消極的になり、妊娠した雌マウスの数は正常と比べ、6.6% 減少していました。

しかし、唾液腺を摘出しても、上皮成長因子の皮下注射を適量し続けると、精子運動能は正常値の5.9% までしか回復しませんでしたが、精子数ならびに受胎率は健康状態とほとんど同等レベルになりました。確かに、唾液腺摘出は精子形成を障害しますが、上皮成長因子を投与すれば、精子運動能の回復は不十分ながらも、ラットの男性機能は立派に回復したのです。

少し脇道にそれますが、最近、話題になっている「セックスレス」。もしかしたら、「噛まなくなった生活」と関連があるのではないかと思うことがあります。

噛むことは人問が生命を維持するための大本であると前に書きました。強い男になるための、すなわち性欲が強い男であるための大きな条件として、「よく噛む」ことが挙げられます。よく噛むということは、生き方がしたたかでイキイキしているということです。俗に「英雄色を好む」といいます。噛む力の強い者ほど精力が旺盛で、権力にも近かったのではないでしょうか。これは、人間にも動物にも当てはまることです。

食欲で強いほうが生き延びる、食欲も性欲も旺盛なほうが生き延びやすい。その根幹がよく噛むことであり、そのことで分泌される唾液の量なのです。逆に、噛む能力が弱いオスは、もともと生死をかけて戦う能力も弱ければ、子孫を残したいという欲望や能力も弱かったということになります。つまり、よく噛み、たくさんの唾液を出すオスは、強く生きられるうえに、生殖能力もあって自分の子孫を残すことができるというわけです。

最近になって、セックスレス・カップルになる原因は199 2年から2000年までの統計では「性嫌悪」の増加ぶりが目立つようになり、さらに注目されるのは、その男女別内訳です。当時は性嫌悪全体では男性81人、女性146人と女性に多く、6〜7年前までは男性のほうが少なかったのですが、最近では男性に多くなったといいます。

つまり、性嫌悪症といえば女性といっても過言ではなかったのが、そうした区別がなくなってしまったというのです。回答した男性81人は、全員が「獲得性」(あるときまではセックスができていた)、「状況性」(相手が異なればセックスはできる)、「心因性」(身体的疾患はない) でした。このなかでパートナーの個人的欠点を嫌うようになって生理的嫌悪感を持つようになった3 を除くと、それ以外のカップルは伸のよい関係を維持しており、性的ニュアンスを含まなければ、腕を組んで一緒に買い物に出かけることも珍しくないような状況です。

これらのカップルに共通する傾向として、パートナーに対する愛情の質が変化している点が挙げられるといいます。つまり、結婚当初は「男女愛」であったものが、生活を重ねるうちに「家族愛」 や「肉親愛」に変化して、パートナーを性の対象としては見なくなる傾向が認められるそうなのです。

性治療に長く携わる医師にもなぜ、かつては目立たなかった男性の性嫌悪が増えているのか、その原因はわからないというのが本当のところだといいます。

もしかしたら、この性的意欲の低下の原因の1つとして、「噛まない食事」を好むようになり、唾液の分泌が減り、その結果、噛む能力や戦う能力が弱くなり、同時に子孫を残したいという欲望や能力も弱くなってきたということがあるのではないかと考えるのです。

今こそ、人間として本来備わっている能力を十分に活用して健全で心豊かな生活を送るためにも、よりよい結婚生活を送るためにも、「よく噛むこと」をもう一度見直してほしいと願ってやみません。

唾液分泌のメカニズムと唾液の効能7項目

唾液は、消化の働きだけではなく、幅広い領域で、人知れず重要な働きをしています。意識していない中で働いている縁の下の力持ち的存在といってもいいでしょう。

唾液分泌のメカニズムと唾液の効能7項目

宮沢賢治風にいうなら、唾液は「ホメラレモセズ、クニモサレズ」というところですが、実はこういう存在があって、私たちは、雨にも風にもストレスにも病気にも負けない体を維持していられるのです。

これまで唾液腺から導管を通って分泌され、口の中を潤す唾液(外分泌) について述べてきましたが、次に、その途中で血液に取り込まれて全身を回るホルモン(内分泌)について述べたいと思います。もちろん、これも唾液です。

唾液ホルモンには多くの物質がありますが、その代表的なものとして、成長を助けるホルモンである上皮成長因子(EGF)や神経成長因子(NGF)があります。実は、唾液ホルモンの研究は、日本ではすでに1930年代から始められていました。最初にこれに着目したのは、東京大学で病理学を研究していたグループでした。

このグループは、唾液の中にはいろいろなホルモンを制御する中心的なホルモンがあるのではないかと考えて研究を始め、目標のホルモンを発見しました。このホルモンは、耳下腺( バロタイドグランド)にちなんで、「パロチン」と名づけられました。

日本全国の学者がこれに共鳴して、膨大な研究が行われ、唾液の持つ重要性が認識されてきました。一方、同じころかちょっと遅れてアメリカでも、が唾液に含まれる成長因子に着目して研究を始めました。そして、ネズミから唾液腺を取ると、歯が生えなくなり、毛のツヤも悪くなって、まぶたが開かなくなる現象が起きることがわかりました。

体の外側や皮膚の表層にある細胞のことを「上皮細胞」といいますが、歯や毛は一見、何の関係もなさそっな上皮細胞が変化したものです。たとえば歯は、口の中の上皮細胞が増殖し、エナメル質を形成するとともに、粘膜下の結合組織脂肪を誘導して、歯根となる象牙質、セメント質や歯根膜をつくります。

上皮細胞というと、体の外側を覆っている細胞のように思いがちですが、そんなことはありません。食道も、胃も、腸の粘膜も、みんな皮膚なのです。体の表面の皮膚が内側に裏返って入り込んでいると考えればわかりやすいでしょう。血管もそうです。

体のすみずみまで栄養を運ぶ血管の内側にある内皮細胞も皮膚と同系の細胞です。つまり、上皮成長因子は体の内外を問わず、体中の細胞を新しくする新陳代謝にとって、重要な役割を担っているのです。

ネズミから唾液腺を取ると歯や毛やまぶたに悪い影響が出ることから、唾液腺の中には上皮細胞の成長を促進させる因子があると信じて研究を進め、上皮成長因子を見つけました。さらに、唾液腺の神経成長因子を発見しました。この神経成長因子とは、体中に張り巡らされたセンサーで、神経の増殖をつかさどっています。

脳細胞の成長も促進します。ちなみに、この研究については、1968年、ノーベル賞が授与されました。つまり緒方教授グループが世界に先駆けて手がけた唾液由来のホルモンであるパロチンの正体は、上皮成長因子や神経成長因子など多数の生理活性物質の混合物だったのです。

これらのパロチンが血管を通って体じゅうを巡り、成長を促進したり、命を保つために黙々と働いているのです。唾液の成分がしっかりと全身に供給されていれば、若々しい細胞を保つことができます。一言でいえば、唾液には若返りの秘密が隠されているのです。

グルメになりたかったらアミラーゼを活用することです。唾液の中には、味をよくする酵素が含まれています。その代表がアミラーゼです。

ご飯をよく噛んでいると甘味が増してきます。これは、アミラーゼがご飯のデンプン質を麦芽糖( アミロース)にするからです。デンプンというブドウ糖のポリマー(分子のつながりの長いもの) をぶつ切りにして低分子(分子のつながりの短いもの) にする酵素がアミラーゼなのです。こ

のくらいの小さな分子になって、ようやく甘味を感じる神経に入り込めます。ご飯だけでなく、デンプン質のものは、よく噛めば何でも甘くなります。パンもうどんもそうです。早く食べることは、よく噛まないことですから、本当の甘味には到達しません。

もっとも、うどんをよく噛んで食べる人はあまりいないようです。香川県に行ったとき、讃岐うどんをよく噛んで食べていたら、店の人から「うどんはのどで味わうもんだ」と言われたことがあります。でも、残念ながら、のどでは甘味を感じることができません。それにしでも、本物のグルメか偽者かは、食べるスピードでわかります。

猛烈に食べるのが早い人、つまり早食いの人は、本物の昧がわかっていません。つまり、偽者です。もっとも、昨今のグルメは味がわかることよりも店の名前を知っていることが肝心だそうです。

さて、おいしいワインを利き分けて、客の好みに合ったワインを選ぶソムリエという職業があります。最近、日本でもソムリエを養成する学校ができています。ソムリエは、何十種類、何百種類ものワインの利き分けをしますが、このとき水で口をすすぎません。パンやチーズなどを食べるのです。硬いものをよく噛んで唾液を出して、その唾液で口の中を洗っているのです。ガスチンの効果を十分に知っていて、味覚を高めながら、同時に唾液で洗い流すという効果を持たせているのでしょう。

ガスチンには味覚を敏感にする作用があります。アミラーゼに「食物を分解して積極的に味覚を感じさせる作用」があるとすれば、ガスチンはそれを受け取る「味覚の末端域の感受性を敏感にさせる作用」があります。つまり、唾液はダブル作用で食物の味をよくしているわけです。

ワインといえば、友人がワイン通で、よく自宅でのワインパーティに招待されたものです。10人くらいで、それぞれワインを1本ずつ持って集まるのです。夕食後、各自が持ってきたワインを、銘柄を隠して並べます。スコアカードを持って、香りとか、渋味とかいろいろな項目を挙げて検討し、最終的に産地や銘柄、さらに何年ものかを当てるというゲームです。

なかなか優雅な集いでした。10銘柄くらいのワインを少しずつ飲んで当てるのですが、私たちもソムリエのように、パンをかじったり、チーズを食べたりして挑むのです。たしかに、このほうが、水で口をすすぐよりも味覚が研ぎ澄まされるような気がしました。というのも、水を口に入れると、それだけ唾液の出る量が少なくなってしまうからです。

とはいえ、銘柄のほうは、まったくといっていいほど当たりません。ワインではなくご飯だったら、コシヒカリだとか、ササニシキだとか噛めばたちどころにわかるのですが、味覚文化の違いでしょうか。このゲームでつくづく納得しました。

ソムリエのあの驚異的な利き酒の能力の1つは「唾液」のおかげなのです。舌の表面には味覚を感じる神経の先(味蕾)が露出していますが、これは唾液で潤ってはじめて敏感に味覚を感じられるのです。味を感じるのは唾液に溶けた味物質であり、カルキの入った水道の水ではその代用はできないということです。唾液はグルメの最も本質的な「武器」だったのです。

唾液分泌のメカニズムと唾液の効能7項目

唾液には、発がん物質を抑制する成分が含まれることもわかっています。1981年、同志社大学の西岡教授は、「ヒト唾液が発がん物質の変異原性を消去する」という論文を発表しました。

これは唾液に含まれているラクトペルオキシダーゼという酵素に、いわゆる発がん怪物質として知られる食品添加物や生体の異常によって発生する有害な活性酸素を消去する作用があることを実験的に証明したものです。

ピーナッツなどにつくカビ毒、防腐剤、魚のこげ、牛肉のこげ、サケのこげ、たばこのヤニなど、いずれも私たちが普通に生活をしていて、日常的に口にする可能性の多い発がん物質ばかりです。唾液を混ぜる前と混ぜたあとでは、いずれも「変異原性の強さ」の値が大きく減少していることがわかります。

この変異原性の値とは、実験の結果、突然変異した細胞集団の数を示したもので、それぞれの物質が細胞をがんにする「毒」の強さを表しています。つまり、唾液を混ぜたあとで、この値が大きく低下したということは、唾液にはっきりと発がん物質の毒を消す効果あったということなのです。

さらに、西岡教授は唾液に含まれるこの酵素、ラクトペルオキシダーゼの作用には個人差があり、しかも個人の生活状況や体調(睡眠不足、疲労など)によっても影響を受けることも証明しています。

また、この酵素の作用は20歳代でがん抑制効果が最大ですが、小児や高齢者など年齢や老化によって低下することも報告しています。

個人の生活状況や体調で、この酵素のがんの毒消し効果が変わるということは、生活習慣が乱れると、がんに罹患しやすくなるということで、西岡教授のこの研究は、がんが生活習慣病の1つであることを証明した非常に価値の高いものといえるでしょう。

なお、このほか、唾液に含まれるアミラーゼ、カタラーゼなどの多くの酵素にも、発がん物質の働きを弱める効果があることが知られています。いずれにしても、酵素に働いてもらい、食物に含まれる発がん物質を中和するすには、食物をよく噛み砕き、しっかりと唾液と混ぜ合わせる必要があります。「よく噛んで食べる」ことががんの予防に役立つというのは、そういう意味なのです。

唾液分泌のメカニズムと唾液の効能7項目

よく噛んで食べることの基本的な効果に、「食物を細かくすり潰す効果」「唾液と混ぜる効果」の2つがあります。いずれの効果も、胃での消化を助けるためにとても重要です。消化するということは、もともと自分の体をつくつている構成要素ではないものを取りこ
り込んで自分の体の一部にしてしまう作用です。

本来、人問の体には、自分の体の構成要素ではないものが体に入ってくると、それを「異物」とみなして攻撃する働きがあります。これが免疫という生体防御機構で、体を守るための大切な働きの1つです。

この免疫システムは、まず第一に、外部から栄養を摂取しなければなりません。消化するということは、単に食物から栄養を吸収するということだけでなく、「異物」が持っている抗原としての働きが完全に消失するまで、食物を分解することでもあります。

食物の中に存在する分子構造で人にはない構造を抗原性決定群といい、これを破壊することが消化の重要な役割なのです。その大切な働きをする胃腸をしっかり手伝っているのが、歯(咀嚼)と唾液なのです。胃に入るまでに、食物が細かくなっていればいるほど消化しやすくなるというのは、誰でもわかる理屈です。しかもそれが、唾液というネバネバしたオブラートで包まれていれば、食道や胃への刺激も弱くなります。そのオブラート役をしているのが、唾液の成分の1つであるムチンという糖とタンパク質の複合体です。

よく噛めば食物は小さくなりますが、その1つ1つをムチンがきっちり包み込んでいるのです。人が口にする食物はそれぞれ、熱い、冷たい、辛い、苦い、しょっぱいなど、かなりの刺激性を持っています。味覚を楽しむのは脳なので、これらの感覚刺激は食味として脳にとってはうれしい要素なのですが、食物を分解して「自己化」しなくてはならない胃にとってはありがたいものではありません。

むしろ、刺激性の強いものは食道や胃壁を荒らす敵なのです。そこで、胃への刺激を少しでも減らそうと活躍しているのがムチンというわけです。ですから、塩辛とかキムチなどの刺激物が好きな人は、食べる際はとくによく噛むことが大切です。

辛さや苦さを味わうのは、口の中だけにとどめるということです。よく噛めば、脳も十分満足します。しかも、そうしている問に、唾液中のムチンががんばって刺激物をオブラートのように包み、飲み込みやすく、しかも胃に負担をかけないようにしてくれます。こう考えると、よく噛まないで、唾液が分泌されないうちに食物を飲み下してしまうことや、酒類の一気飲みがいかに体に悪いかがわかるでしょう。

また、熱いカレーなどをほとんど噛まずに飲み込み、食道で熱くてたまらず、あわてて冷たい水を飲むような食べ方は、食道がん、胃がんの原因にもなりかねませんし、胃腸の働きを低下させる最悪の食習慣といえます。

歯科医院を訪れた患者が、胃腸を悪くしているケースは少なくありません。歯が悪くなると、「よく噛めない→ 食物の大きな塊が完全にムチンにくるまれずに胃に入る1刺激物が胃壁を荒らす」と、絵に描いたような悪循環の図式ができあがります。

ですから、歯が悪くなれば、当然、胃腸も悪くなるのです。少しくらい歯がうずいても、なかなか歯科医院に行こうという気にならず、しばらく放っておく。するとそのうち胃が悪くなつてくる。それはよく噛めないことが原因だったわけです。歯と胃は連動していて、互いに助け合っていることを忘れてはなりません。

唾液分泌のメカニズムと唾液の効能7項目

唾液には、細菌と闘う成分がいろいろ入っています。食物を通じて人間の体には外から細菌が入り込んで来ますが、唾液には抗菌性のある成分が含まれているため、細菌の発育を抑制して体を守るほか、口臭予防の役割も果たします。

その中の一つにIgA (免疫グロブリンA)があります。唾液に分泌される抗体で、外から入ってくる細菌の発育を初期段階で抑制する作用があります。初乳にとても多く含まれているとされ、生まれたばかりの赤ちゃんを細菌の感染から防ぐという重要な役割を担っているのです。

唾液には、常にIgA (免疫グロブリンA)が分泌されています。動物がケガをすると、よく傷口をなめたりします。唾液には抗菌作用があるということを、長い問の経験で知っているのです。

このほか、唾液には、味覚を敏感にする成分、タンパク質やデンプンを分解する成分なぞ、さまざまな成分を含んでいます。

唾液に含まれる主成分と役割

外分泌

  • ムチン...食物を嚥下しやすくする
  • アミラーゼ...デンプンを分解し、麦芽糖にする
  • リゾチーム...抗菌作用
  • ペルオキシダーゼ...発がん物質の作用を弱くする
  • シスタチン...たんぱく質分解酵素阻害作用
  • スタテリン...カルシウムと歯を強くする
  • ガスチン...亜鉛と結合して味覚感覚をあげる
  • ラクトフェリン...鉄分と結合して作用し、細菌の育成を抑制する
  • アルブミン...口の中を滑らかにして乾燥を防ぐ

内分泌

  • EGF(上皮成長因子)...皮膚、口腔粘膜、胃腸、血管などの細胞の増殖
  • NGF(神経成長因子)...神経節や神経穿刺の発育促進

唾液分泌のメカニズムと唾液の効能7項目

最近は歯みがきのCMなどで「再石灰化」という言葉を耳にすることが多くなってきました。

再石灰化というのは、虫歯菌などがつくった酸で溶かされた歯の表面のエナメル質のハイドロキシアパタイト(無機成分)が、唾液などの働きで、再び歯の表面に形成されることです。

食事をとると、歯の表面についたプラーク(歯垢:口の中の細菌がつくり出した物質の塊。歯の表面や根元につくネバネバした皮膜のこと)。

そして、プラークの中の酸性度( pH)がおおむねpH5.4以下と高くなると、ハイドロキシアパタイトが溶け始めます。これを「脱灰」といい、虫歯の始まりとなります。

こうして口腔内は酸性になりますが、なんと唾液の働きによって40〜60分ほどで歯の表面の酸性度は中性になるのです。それで、一度溶かされたハイドロキシアパタイトが歯の表面に戻るのです。これを「再石灰化」といいます。

このように、歯の表面は、常に脱灰と再石灰化を繰り返しているのです。甘いものを好み、問食の多い人に虫歯が多いのは、脱灰されている時間が長く、再石灰化の時問が短くなってしまうためです。

ですから、唾液が十分に分泌できるようにして、「脱灰」と「再石灰化」のバランスを保ち、再石灰化能力を高める工夫をすれば虫歯を防ぐことができるのです。また、唾液中には、歯を強くするタンパク質が含まれています。スタテリンというのですが、これがだんだんと歯にしみ込んでいくと、歯がだんだんと固くなっていきます。

この成分は、酸に対する抵抗力があるので、歯を虫歯になりにくくさせているのです。食事をすると、口の中は酸性になるので、歯の表面が、わずかですが溶けてしまいます。歯のエナメル質はとても固いのですが、困ったことに酸にはめっぼう弱いという弱点を持っているのです。

食事をするたびに溶けていては、すぐに歯がボロボロになってしまいます。これを防いでいるのがスタテリンで、この成分により、唾液は歯を引き締めているのです。

唾液分泌のメカニズムと唾液の効能7項目

食物が口の中に入って阻噛を始めると同時に、唾液の分泌が始まります。その唾液は

  1. 消化酵素を助ける
  2. 刺激のあるものが口の中に入ったときに分泌量を増やして刺激を弱める
  3. 絶えず口の中を流れて、歯や粘膜の汚物を洗い流し、口腔内を清潔に保つ

3つの中で3が一番大事な働きです。唾液腺には三大唾液腺(耳下腺、顎下腹、舌下腺) と、そのほか、口腔粘膜のあちこちに小さな分泌腺が分布しています。

唾液腺でつくられた唾液は、上顎第一大臼歯の頬粘膜、舌の下側の根元のほうにある小さな穴から出ていますが、分泌される唾液は、つくられる腺組織によって性質が異なります。

耳下腺でつくられる唾液は粘り気がなくサラサラしていますが、ほかの腺組織は粘りのある液を分泌します。こHれらの唾液腺は、交感神経と副交感神経に支配されているため、それをつかさどる自律神経と深いかかわりがあります。

食事によって、これらの唾液腺から唾液が分泌される具体的なメカニズムはこうです。

口の中に食物が入ると、食物から溶け出した成分によって、舌の粘膜が刺激を受け、口腔内で一定の食物感覚を得ます。すると、これを知覚する神経が刺激され、情報が脳に伝達されて唾液が分泌されます。

この過程で、自律神経の働きが重要になってきます。唾液腺は副交感神経と交感神経の支配を受けていますが、主に脳にある唾液核(延髄と橋との接合部付近)からの副交感神経の刺激で、唾液分泌の調節を行っています。

味覚や食物を噛むなどの機械的刺激は、この唾液核を興奮させ、唾液を分泌させます。同時に、精神的なイライラや恐怖なども唾液に影響を与えます。

たとえば、「生つばを飲む」という表現がありますが、精神的な緊張によって唾液が出にくくなり、のどが渇くために起きる現象です。これは、従来考えられていたような直接的な交感神経による分泌抑制ではなく、感情や情緒などがかかわる中枢神経系の上位中枢から唾液核への抑制作用によって起きる現象なのです。

さて、「つば」としてあまりイメージのよくない唾液ですが、実は私たちが普段気がつかないすばらしい数々の役目を果たしています。その1つ1つを紹介します。

代表的な7つの唾液の効能

  1. 再石灰化作用で虫歯を防ぐ
  2. 細菌に対抗
  3. 消化を助け、病気を防ぐ
  4. 発がん物質の働きを抑制
  5. 「味がよくわかる」
  6. 細胞を増やし、体が若返る
  7. より女性らしさ、男性らしさを

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