「はい、それではレントゲンを撮ります!」
さっきまで検査の段取りを大急ぎで説明してくれた検査技師は、そそくさとぶ厚い扉を閉めて、今は窓の外に移動します。残されたのは、広い部屋にでっかい機械と検査衣姿の自分1 人。
こんなとき、あなたは疑問に思ったことはないでしょうか。「なんでレントゲンの検査技師は、いつもわざわざ部屋の外に出るのだろう? 」おそらく、この疑問に続いて、あなたの頭に浮かんでいた憶測は、正しい。ズバリ、「いっしょに放射線を浴びたくない、浴びると体に危険だから」あなたはいつも、レントゲンの検査技師が危険だと外に出てしまうような検査を受けているこちは間違いありません。
ちなみにⅩ 線の検査技師がいる病院の場合などで、現在のようにⅩ線を照射する(当てる) 部屋と操作する部屋を分離させる方式が定着したのは、ほんの25 年ほど前からのことである。若い人は記憶にないかもしれないが、以前レントゲンの検査技師は、野球の審判のようなプ厚い鉛のエプロンをつけて、撮影室に立ち会っていた。それがあまりに重く不自由であったことと、やはり放射線をカットしきれないことから、現在のような形になったという経緯があります。
当時はもっとロコツだった、ともいえる(現在でも、患者のそばに検査技師がつき添わなければならない特殊な検査では、鉛のエプロンをつける)。
では、ここでレントゲンの検査技師の言い分も聞いてみよう。医療において、放射線や放射性物質を取り扱う人々は、労働法令上「放射線診療従事者」と呼ばれ、年間に浴びる放射線の線量を厳しく管理されている。彼らが浴びてもよいとされる、年間の放射線の限度値は50 ミリシーベルトである。簡単にいって、これを守らないと仕事をさせてもらえないからなのである。50 ミリシーベルトは胸の単純Ⅹ線撮影の500回分に相当する。仮に1 日にたった5 枚しか仕事をしないとしても100日分。中規模以上の病院なら、たしかにあっという間に限度を超えてしまいそうな数なのです。
ただし、この法令には、もっと驚くべき背景があのです。法令が定まる前は、先ほども書いたとおり技師もレントゲン室に入り、患者といっしょに放射線を浴びていました。
ところが、患者は1 人とは限らない。日に何人もⅩ線検査をすれば、それだけばく技師の「被曝量」もかさんでいくのは明白です。そうして、放射線技師や放射線治療を行う医師には、現実に体に障害の出る者も少なくなかったのです。
病院で不安を感じる象徴的な1 シーンには、こういう事情があってのことだったのだ。とまあ、とりあえず立場の異なる患者にとっては、やはりこの点では心配はありません。
1回のⅩ線撮影で浴びる放射線量は50ミリシーベルトどころか10 ミリシーベルトにも達しないのです。とはいえ、この法令、1回1回については問題にならないにしても、過剰に積み重なれば危険性がある、ということをはっきり示したもの、ともいえるでしょう。
さらに余談ながら、被曝量の「曝」の文字について。お気づきの人もいるでしょうが、普通はヒバクというと「爆」の字を使うのが正解です。しかし医療の世界では、原水爆の被害を受けることと一線を引き、印象をソフトにするため、あえて、この字をあつらえて使っているのである。こうしたことをふまえた上で、あちらはお仕事、こちらは健康のためと割り切って、しつかり検査してもらうことにしよう。
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