アルコール依存症

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アルコール依存症 をひとことでいうと、「大切にしていた家族、仕事、趣味などよりも飲酒をはるかに優先させる状態」です。具体的には、飲酒のコントロールができない、離脱症状がみられる、健康問題等の原因が飲酒とわかっていながら断酒ができない、などの症状が認められます。

確定診断は ICD-10 診断ガイドラインに従います。診断ガイドラインは表1の通りです。 表の中で、2の典型は連続飲酒です。4は酩酊効果を得るための量が以前より明らかに増えているか、または、同じ量では効果が明らかに下がっている場合です。

6では、本人が有害性に気づいているにもかかわらず飲み続けていることを確認します。 なお、以前、慢性アルコール中毒、アルコール症、アルコール嗜癖などという用語が使われていたこともありますが、これらはアルコール依存症とほぼ同じものと考えてよいでしょう。

さて、わが国には大量飲酒者やアルコール依存症の患者さんはどのくらいいるのでしょうか。 2003年に実施された全国成人に対する実態調査によると、飲酒日に60g(純アルコール量として)以上飲酒していた多量飲酒の人は860万人、アルコール依存症の疑いのある人は440万、治療の必要なアルコール依存症の患者さんは80万人いると推計されています1)。

臨床の場では、女性の社会進出および人口の高齢化を反映して、女性・高齢アルコール依存症者の増加が顕著です。高齢者の場合、定年退職後に依存症になるケースも多く、最近のベビーブーマーの大量退職がその増加に拍車をかけています。

アルコール依存症の教科書

世の中には、まったく飲酒しない人から、大量に飲酒する人までが連続的に分布しています。通常、飲酒量が増えるにしたがって、アルコール関連問題の数と重症度は増加していきます。

アルコール依存症はその中で、最も重症な部分に位置しています。 これらの大まかな関係を図1に示します。アルコール関連問題の各項目について、以下に簡単に説明します。 アルコールに関係した問題のすべてはアルコール関連問題と呼ばれ、これには様々な健康問題や社会問題が含まれています。健康問題に限っても、世界保健機関(World Health Organization:WHO)は、60以上もの病気や外傷がアルコールによって引き起こされていると報告しています。

図2は、各ライフステージにおける主な関連問題をまとめたものです。アルコールはタバコと異なり、健康問題に加えて社会問題も大きな比重を占めているのが特徴です。 厚生労働省は「健康日本21」の中で、「節度ある適度な飲酒」と「多量飲酒」を明確に定義しています。前者は、「1日平均20g程度の飲酒」であり、後者は「1日平均60gを超える飲酒」です。

ここでいう60gは、酒に含まれる純アルコール量で、だいたいビール中ビン3本、日本酒3合弱、25度焼酎300mlに相当します。 アルコール関連問題の多くは、この多量飲酒者が引き起こしていると考えられています。 厚生労働省はこの点をふまえて、健康日本21において、2000年に比べて2014年までに多量飲酒者を20%削減する、という目標を掲げています。

アルコール依存症までには至らないが、何らかのアルコール関連問題を有する場合、すなわち図1でグレーゾーンの部分は、概念が最も錯綜しています。 この部分は、WHOが策定しているICD-10診断ガイドラインでは「有害な使用(harmful use)」、アメリカ精神医学会によるDSM-IV-TRでは「アルコール乱用(alcohol abuse)」と呼ばれています。

しかし、その内容は両者でかなり異なっています。 有害な使用は、飲酒のために何らかの精神的または身体的障害が存在する場合に、またアルコール乱用は、社会的または家族的問題がある場合に、そのように診断されます。 近年、上記グレーゾーンに「プレアルコホリズム」という概念が提唱されており、臨床現場でもよく使われています。

プレアルコホリズムは、何らかのアルコール関連問題を有するが、離脱症状も連続飲酒(※1)も経験したことがない場合に、そのように呼ばれます。 また一般に、アルコール依存症まで至らないこれらの問題群とアルコール依存症を合わせて、アルコール使用障害と呼ばれています。

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