いい母乳の質を悪くする要因 妊婦さん必読!

「母乳の質」について目を向けてみます。お母さん方( になろうとしている方も含め) は、いささかショッキングな事実に直面することになるかもしれませんが、赤ちゃんの健康な発達を願うなら、正面から受け止めてはしいことばかりです。

たばこと母乳

タバコを吸うことが母乳にどんな影響を与えるかに触れる前に、タバコと妊娠の関係につい知っておいたほうがよいようです。妊娠中の喫煙が胎児の発育を阻害し、出産時の体重が軽い赤ちゃんの増加を招いてしまうことは、すでに1957 年にシンプソンという研究者により報告されていて、以後、同種の報告は数限りありません。

シンプソンによれば、1日あたりの喫煙本数と未熟児の発症率についてこう説明しています。たばこの本数が増えれば増えるほど未熟児が産まれる確率は増加しています。

健康な赤ちゃんに恵まれるために、タバコがいかに大きな障害になるかがお分かりでしょう。妊娠中のタバコの害は、未熟児の増加だけにとどまりません。自然流産、早産( 対照の1 ~14% とは、タバコを吸わないお母さんの場合です)、果ては死産や新生児死亡、胎児奇形までも招きがちなのです。

こうした異常が発生するメカニズムは、今のところこれと確定されるものが明らかにされているわけではありません。しかし、まずはタバコの煙の中に含まれるニコチンによって血管が収縮し、そのために胎盤の血行障害が招かれて胎児への栄養供給に支障が生じることが考えられます。またタバコの煙の中には大変に有害なガスである一酸化炭素が含まれていて、これが胎盤機能に影響を与えたり、ベンツビレソという物質による催奇形性なども考えられます。いずれにしても、妊娠中のタバコは厳禁というほかないでしょう。とはいえ、これはとても幸いなことなのですが、母親とは本当に強いもので、妊娠に気づくと同時にスッパリとタバコをやめることができる人が少なくありません。

タバコの持つ強い習慣性も、お母さんの慈愛に富んだ心にはかなわないということでしょうか。ではタバコと母乳の問題に入りましょう。まずほっきりしているのは、授乳期のお母さんがタバコを吸うなら、タバコによって血中に入ったニコチンは、小量とはいえ、必ず母乳に入りこむということです。これは広く認められています。

では、その母乳中のタバコが赤ちゃんにどんな影響を与えるのでしょう。ビスダムという研究者の1973年の報告によれば、1日に20本以上タバコを吸うお母さんの母乳を飲む赤ちゃんでは、不眠・下痢・嘔吐・頻脈・循環障害などの症状が現れたといいます。

その後の研究では、1日に吸うタバコが20 本以下のお母さんでは、母乳中のニコチン濃度は赤ちゃんに影響を与えるはどでほないという報告も出ています。したがって一般論としてほ、20本以下の契煙量のお母さんなら、ことさら授乳を禁止する必要もないだろうとされています。しかし、よく考えてみてください。「20本以下なら、授乳を禁止する必要はない」というのは「20本以上吸うお母さんの母乳ほ、赤ちゃんにとって明らかに有害となる心配がある」ということにほかなりません。

なお、小さな赤ちゃんは、たとえ母乳からニコチンの害を受けなかったとしても、家の中にタバコの煙が立ちこめていれば、もっと悪い影響を受けかねません。これについてはキヤメロンという研究者が「両親の契煙と小児の呼吸器障害の関連」について報告して以来、小児の受動喫煙(自分は吸わないが、結果的に他の人の吸う煙を吸ってしまうこと) は死亡率・発育障害・突然死症候群と関係があることが数多く報告されています。

アルコールと母乳

胎児性アルコール症候群(FAS) という言葉があります。これは、ごく乱暴にいうなら、胎児時代にアルコール中毒になってしまったような、まことにかわいそうな赤ちゃんに現れる症状のことです。これらは、いかに深刻な症状であるかが分かります。アメリカでは、赤ちゃん1000人のうち1~2 人にこのF ASが発見されています。もちろん、これはど深刻な症状の赤ちゃんを産んでしまうお母さんは、かなりの量のアルコールを飲んでいたに違いありません。しかし継続的に大量のアルコールを飲んではいないにしても、特に妊娠早期に相当量のアルコールを飲んでしまうと、この症状が出てしまうことがあるといいます。

FASの赤ちゃんは、生後6時間から8時間くらいするとアルコール禁断症状が現れるというのですから悲惨です。振戦・益刺激性・緊張克進・多呼吸・けいれん様発作・腹部膨満・嘔吐など、その禁断症状は、まさにアルコール中毒の禁断症状になぞらえるものです。

いうまでもありません。FASの赤ちゃんに現れる禁断症状は、一切本人の責任ではありません。アルコールに頼らざるを得ないような、いかなる理由があったとしても、全面的にお母さんの責任なのです。FASの症状まで心配するほどではないまでも、アルコール中毒( 医学的にはアルコール依存症) のお母さんでは、自然流産(普通の2倍)・先天性奇形(4倍)・新生児仮死(l・5倍) などの深刻な影響が考えられます。

アルコール飲料、つまりお酒とは本当に厄介な飲み物です。私たちも決して嫌いではありませんから、その厄介さは重々承知しています。最初はたった1 杯のつもり、はんの少量でやめるつもりが、いつしかヨレヨレになるほど飲んでしまうのがアルコールの秘め持つ魔力です。したがって、妊娠に気づいたら、いえいえ、妊娠の可能性のある女性ほ、心してアルコールをひかえるようにしてください。むろん、飲まないに越したことはありません。では授乳中はどうでしょう。実はこれもかなりの問題です。

母乳中のアルコール濃度は、血中のアルコール濃度とはば同等になることが分かっています。つまりお酒を飲んで酔っ払った(血中アルコール濃度が高い状態) お母さんの母乳を飲む赤ちゃんほ、やっぱり酔っ払ってしまうということです。こうしたことが日常だとすると、低プロトロソビン血症・キャッシング症候群(体重の増加・身長の伸びの低下・円形顔貌) などの深刻な影響があるという報告もあり、お母さんが酔っ払って授乳するのが1 回だけとほいえ急性アルコール中毒(深い眠り・呼吸数減少・徐脈) などを引き起こすことがあります。むろん、授乳期ということであれば、少量の楽しいアルコールなら問題ないでしょう。

むしろ毎日、日夜を違わず忙しく赤ちゃんの世話をする疲れを、いくらかなりとも解消してくれるかもしれません。しかしあくまでも少量です。酒好きの私たちがこんなことをいっても説得力がないかもしれません。また男の身勝手といわれても言い訳のしようがありません。しかし赤ちゃんの今と将来のためです。世のお母さん方にお願いします。アルコールほ、ぜひとも遠ざけてください。

カフェインと母乳

コーヒー、紅茶、緑茶、コーラ類など、私どもの周囲にはカフェインを含む飲料が数多くあります。また、妊娠中の女性であっても、こうした飲料にことさら注意を払わない方は少なくありません。カフェインは、脳や心臓の筋肉の新陳代謝を促進します。

また利尿作用があります。大量に飲むなら、不安・興奮・幻覚・振戟・不整脈なども引き起こします。またカフェインは胎盤を簡単に通過してしまいますから、羊水や胎児にも影響を与えると考えられます。とはいえ、動物実験においてはカフェインの催奇形性が報告されていますが、人間においてほいまだそのような報告はありません。しかしお母さんの血液中のカテコラミソを増加させるために胎児の血管の収縮を招き、低体重児増加を招くとする意見もあります。

母乳への影響ということなら、あまり心配はないだろうというのが一般です。すなわち、お86母さんの血液中のカフェインは母乳中にも分泌されるものの、その濃度が低いために、赤ちゃんに直接の影響を与えることはないだろうというのです。しかし、大量のコーヒー( 1 日に20 杯ほど) を飲むお母さんに授乳された赤ちゃんでは不穏症状(落ち着きなく不安状態になる) が認められたという報告もあります。

生まれて間もない赤ちゃんでは、カフェインの半減期(代謝排泄されて血中濃度が半分になるまでの時間)が大人の17倍にもなるということも考えておくべきでしょう。やはり、妊娠中・授乳中にカフェイン含有飲料を飲む量は、少ないに越したこことはありません。

薬物と母乳

授乳中の母親に投与された薬物は、量的に多少はあるものの、そのはとんどが母乳を通じて乳児に移行するが、大量あるいは長期間の服用でもない限り、乳児に問題を惹起するものほ少ないとされてきた。しかし、少量短期間の使用でも乳児に悪影響を与えるものもあり、薬物の使用に際しては注意が必要である。

つまり、授乳中に薬を飲むことは、少量で短期間であっても赤ちゃんに影響がないとはいいきれないので、よく注意することが必要だということです。皆さんもよくご存じのように、妊娠中の薬物投与については、医師も大変に注意深く対応しています。

また一般のみなさんも、どうしても飲まなければならない薬があるとしても、その薬の胎児への影響についてほきわめて慎重に検討するでしょう。いうまでもなく、一般の薬店で売られている薬にしても、影響が心配されるものにはその旨が明記されています。

しかし授乳期となると、それほど慎重ではなくなるのかもしれません。いずれにしても、妊娠・授乳期を通じて、薬には十二分の注意を払うのが原則でしょう。

とはいえ、お母さんの体を守るために、赤ちゃんへの影響の懸念がありながらも飲まなければならない薬もないとはいえません。そうした点については、かかりつけのお医者さんに十二分に相談して、その指導にしたがってください。くれぐれも素人判断は避けること。これは、赤ちゃんの生命を託されたお母さんならばこそ、なおさらの大原則です。

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