低温殺菌の牛乳が市場に流通しないのは企業の利潤に関係する

さて、ここで「低温殺菌」の牛乳も市販されていることを思い出してください。これなら高温殺菌の牛乳はどの弊害はありません。もちろんむやみに大量に飲んだとしたら、あまりよい結果にはならないでしょうが、どうせ適量を飲むのなら低温殺菌の牛乳を選ぶに越したことほないのです。

牛乳を低温で殺菌する方法は、ヨーロッパで古くから行なわれてきています。日本でも、1961 年に高温殺菌が広く導入されはじめる以前は、すべて低温殺菌でした。牛乳売り場で目を皿のようにして探せば「パスチャライズド」とか「63度30分殺菌」と記された牛乳が売られています。

この殺菌法は、フランスの有名な細菌学者・パスツールが発明した方法です。この殺菌法が「パスチャライズド」とか「バストリゼイション」などと呼ばれるのは、そのためです。かつてのヨーロッパでほ、原乳をそのまま飲んでいたがために、これがしばしば病気の感染源となってしまいました。そこで原乳の中の細菌を殺す方法として考案されたのが低温殺菌だったのです。

パスツールはいろいろと試行錯誤をくり返したに違いありません。なぜなら、牛乳の栄養素を損なうことなく、しかも細菌を殺すのはとても困難なことだったからです。しかし熱心で誠実な研究者は、必ずどんな難問も解決するものです。

パリのパスツール研究所に今も名を残す彼もそうでした。彼は、牛乳を63度まで加熱して30分間保持したときに、牛乳中の細菌の9%は死滅するものの、タンパク質や脂肪やビタミンやミネラルなどの栄養素ほはとんど影響を受けないことに気づいたのです。いえいえ、微細な栄養分析の技術は現在はどに発達していない19世紀のことですから、それはど細かいことは分からなかったでしょう。

しかし味わいが変わらないこと、またその後に乳製品として加工する上でも、内容成分が変化していないために不都合が生じないことなどほたしかめられたに違いありません。私たち日本人は、もともとが牛乳の味に鈍感でもあったのでしょう、いつの間にか「決して美味しくはない」 高温殺菌の加工乳の殊に慣らされてしまいました。しかし昔から牛乳の本当の味を熟知しているだけに、ヨーロッパの人の多くは今も低温殺菌の牛乳を主として利用しています。

低温殺菌の牛乳は、昧・栄養などあらゆる面で高温殺菌より優れているようなのに、日本でほどうして高温殺菌の牛乳ばかり売られるようになってしまったのでしょう?不思議だとほ思いませんか?この理由が、実ほ意外なはどに、いやいやガッカリしてしまうことに、きわめて簡単だったのです。

何だと思いますか?つまり低温殺菌は加工に時間と手間がかかって生産効率がとても悪いからです。低温殺菌では、二重釜を使って内側の釜に牛乳を入れ、外側の釜に湯を入れて牛乳の温度を上げてゆきます。そう、湯煎することで63度まで高めるのです。そしてその温度を30分保つのです。これは高温殺菌のように流れ作業でできる加工ではありません。どう考えても手工業的、非能率的で、まずは利益追求が最優先となる企業の論理に反します。したがって高温殺菌の牛乳が幅をきかせるのは、少なくとも現在の、いまだ経済利益最優先から抜けられぬ日本にあっては必然的な結果だったのです。