海馬の脳細胞は年をとっても増やせる

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一般に、人間の大脳皮質の神経細胞の数は140億個とも言われています。中枢神経全体では、神経細胞の数は1000億と2000億の問と推定されています。

膨大な数であるような印象を受けますが、私たちの脳の神経細胞は1日10万個という猛スピードで死に、老化とともに脳が萎縮し、機能が低下していくといいます。

そして、このような脳神経細胞のシナプス(ネットワーク)を介して、人間が五感(視覚、聴覚、喚党、味覚、触覚) から得た情報は、海馬に一時的に記憶として保管され、その記憶は海馬が判断し、適切な保管場所に移されます。

海馬は、記憶をつかさどるだけでなく、ものや自分の位置関係を知るための大変重要な役割(空間認知能)を担っています。ところが、年齢とともに、人問誰しもが避けて通ることができないのが海馬の萎縮なのです。

海馬は、認知症(痴呆症)になる、ならないにかかわらず、小さくなつてしまいます。そして、これが極端に薄く、紙切れのようになってしまうと、認知症に陥ります。

ですから、老眼になるのと同様に、記憶力が年齢とともに低下するのは、中高年者の脳に起きる自然な老化現象であり、憂慮すべきことではありません。しかし、ここで注目すべき事実があります。減少するだけの脳のほかの領域の神経細胞とは反対に、海馬の神経細胞は鍛えれば増加するのです。

しかも、それは「噛む」ことによって活性化させることができます。「本当に? 」という疑問が聞こえてきそうですね。「歯は食物を噛むためのもので、頭をよくするなんて信じられない」と。果たして本当に「歯」と「海馬」に関係などあるのだろうかと半信半疑でした。

ところが、実際に研究を進めてみると、次々と興味深いことがわかってきたのです。最近では、よく噛むと海馬の神経細胞の活性を向上させるという事実が証明されました。人の年齢に換算すると65歳くらいの老齢期マウスを使い、学習・記憶力を測定するために、水迷路テストを行いました。

小さなビーズで水面下を見えなくしたプールで、マウスを遊泳させます。水面下には一部、マウスの足が届く高さに小さな休憩台が隠されています。すると、正常なマウスを使った実験では、マウスは最初、遊泳を始めて休憩台を見っけるまでに60秒程度かかりました。が、スイミング学習を1日に4回、1週問続けさせると、数秒で出発点からほとんど直線的に休憩台に到達するようになりました。

つまり、老齢期のマウスでも、規則正しく学習をすれば、自分の位置と周囲の景色から休憩台の位置を確実に学習し、記憶能力(空間認知能) を向1 させることが示されたのです。

次の実験では、奥歯( 顎臼歯)を削り取り、噛みにくい状態にしてみました(臼歯切削群)。すると、このマウスは1週問学習しても目的地を覚えられず、迷い、到達時間を謝秒以下に短縮することはできませんでした。

白歯を削られたマウスの記憶力は、健全なマウスの5分の1 程度に低下していたのです。

さらに、次の実験では驚くべき事実が観察されました。この実験では、削り取った白歯を1週間後に治療して、よく噛める状態にしました(歯冠修復群)。

すると、学習・記憶力が日ごとに向上し、1週間後には劫秒前後で休憩台に到達するようになったのです。づまり、歯の治療が、記憶力を釣50% 回復させたと考えられます。

これらの学習・記憶力の評価は、マウスの遊泳時間を基準にした観察結果ですが、果たして、本当に脳の海馬の神経細胞にも変化があったのでしょうか? このことを科学的に証明するために、学習を終えたマウスの脳を採取し、海馬の切片をつくり、神経細胞の数を測定しました。

すると、海馬の神経細胞の数は、実験の奥歯が正常なグループは1 2m当たり約900個で、実験の歯を削られたグループは約500個と、実験の約56%まで減っていました。

そして、実験3の歯の治療をして噛める状態にしたグループでは約700個で、約78% まで回復していたことが確認されたのです。

これは、歯がよく噛めなくなると、記憶を失ったり、迷子になったりの認知症状態になり、歯の治療をすると、記憶力が回復しうることを示しています。

また、噛めないマウスが自分の位置を覚えられない原因として、噛めないことによって慢性的にストレスがかかり、脳内の神経伝達物質が少なくなり、障害を起こしていることが考えられるということもわかってきました。