嚙むときの口を動かす脳の領域

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1938年、カナダの神経生理学者ペンフィールドはてんかん患者の了承を得て、開頭手術を行い、大脳皮質のさまざまな部位に電気的な刺激を与えて、患者がどのような刺激を感じているのかを聞き取りながら調査しました。

これは、脳のどの部分を刺激すると身体のどの部位が動くか(運動野)、そして、どのような感覚を感じるか(体性感覚野)を明らかにした貴重な人体実験です。

現在、このような実験は到底許されるものではありませんが、脳の働きを理解するための、脳治療の発展に直結する重要な基礎的情報として、医学生の教科書にも掲載されています。

手足を動かす領域は頭頂部と側頭部の上部側に存在し、下部側は顔と口の動きを支配していますが、その領域の割合は、ま半々になっています。体性感覚野(中心溝の後側)は全身からの感覚情報(冷、寒、痛、触など) の受け皿になつていますが、支配領域の広さも、運動野とほぼ同じ比率になっています。

脳の表面に描かれた奇妙な顔と手足を持つ絵はホムンクルス(「小さな人間」の意)と呼ばれ、脳が身体を支配する領域の大きさに応じて体の部位を誇張して描いたものです。

ホムンクルスの身体は相当ゆがみ、手指は大きく長く、顔や口も異常に大きく描かれています。とくに、運動野での咀嚼、飲み込み(膝下)、唾液分泌、発声などにかかわる部位の働きと体性感覚野での歯、上下唇、舌、のど、顔、鼻、目などの働きが連動している様子がうかがえます。

そして、これらの占める割合が運動野や体性感覚野のほぼ2分の1程度にもなり、噛むという行為が脳に与えている影響の多大さを示唆しています。さて、脳の血液量は、全体的に増えるのではなく、手が動くときには脳の手の領域で、足が動くときには脳の足を動かす領域で増えていきます。

口と関係する脳の部位は広いので、口を動かすと、効率よく脳の血流をよくすることができるといえます。つまりよく噛んで口を動かすだけで、脳の血流が増え、脳は活発に働き出すのです。口というのは、髪の毛がl本人ってきても感じるくらいに非常に敏感な器官で、岨喝して食物を飲み込むだけでなく、味を感知したり、舌や唇を動かしてしゃべったり、表情をつくつたり、実にさまざまな働きをします。

体性感覚野における口の占める割合が非常に大きいのは、人力される情報量が他の感覚器に比べて格段に多いからであるといえるでしょう。

「食べること=脳を活性化すること」なのです。歩くのが嫌い、車の送り迎えが好き、鉛筆も自分で削れない、体を動かすのが苦手( 体育が不得意)、コンビニエンスストアやファミリーレストランでやわらかくおいしいものを好んで食べる、いつでもどこでも間食する、そして肥満傾向がある、そんな児童は脳神経細胞の発達に不利な生活習慣が身についていると断言できます。

また、一度食べたものは味も舌ざわりも覚えているように、噛むことは記憶とも大いに結びついています。

たとえば、高齢の入院患者が口からものを食べられなくなつたとき、鼻から管を通して栄養を与える経管栄養や点滴に替えたとたん、認知症(痴呆症)になりやすいことは、噛むことと脳の働きのつながりが非常に強いということを示しています。

そこで、さらに一歩進めて私たちの研究グループが着眼したのが脳と岨噂の関係で、とりわけ脳の中でも記憶をつかさどる海馬という部位と岨噂の関係でした。

脳と岨噂の密接な関係を見出すことができれば、岨噂という刺激によって、脳の神経細胞を刺激して活性化させ、認知症を防ぐことができるのではないか、そう仮説を立てたのです。もし、日常、誰もが行っている「噛む」という行為によってそれが可能になれば、初期の認知症患者や予備軍にとって大きな福音となります。