また、食物は命の原点ですから、食物のカロリー、バランス、機能(体の働きを促進する) などにも気配りが大切です。多くの栄養学の専門家も「1食10品目」「緑黄色野菜」の摂取を推奨しています。1回の食事に10品目の食材を食卓に出すことはできても、1日に30品目のおかずを調理することは至難の業でしょう。ましてや、レストランで注文したら、大変な量と出費になりますね。
しかし、これは努力目標です。栄養バランスのためにもできるだけ多種類の食物を食べるようにしましょう。とくに、緑黄色野菜は繊維成分だけでなく、ビタミン、イソフラボン、ポリフェノールなど、体の働きを助ける機能性成分を含むので、大切な食材です。こ国立がんセンターが提案した「がんを防ぐ12カ条」と、古くから知られている「健康十訓」があります。
ガンは予防できる | ガン予防のための習慣
https://www.malignant-t.com/archives/1
このがん予防の提案でも、7か条は食事に関連した注意事項です。残りの5か粂は酒、たばこ、日光、運動、清潔の保持などの生活習慣に関する注意事項となっています。
江戸時代中期の儒学者である貝原益軒の『養生訓』は非常に興味深いものですが、図表7-3のように、横井也有の健康十訓も、食事、運動、薄着、日光浴、睡眠だけでなく、精神的(喜怒哀楽) な安定も含めた健康維持のためのク生活の英知〃で、今読んでも深い感銘を受けます。「温故知新」の言葉どおり、21世紀の最先端健康医学も、先人の確立した経験則を科学的に追従していると言っても過言ではありません。
]]>自分の身についてしまっている「噛まない」長い長い習慣が、意外に根強いこともわかるでしょう。うまく噛めないという方に聞くと、たいていの場合、噛もうとしても、すぐ飲み込んでしまい、食物が消えてしまうから、という答えが返ってきます。そうした方のために、以下のような食べ方をお勧めします。
これで、一口30回噛んだことになります。こんなことを一口ごとに行うなんて、とても大変と思われるかもしれませんが、これが最も基本となる噛み方ですので、とにかく慣れるまでは意識してやってみてください。噛み癖というのは幼児期に獲得した食習慣であって、これを矯正するのは大変に難しいことなのです。自らを「洗脳」するつもりで、新しい「噛み方」を脳に記憶させましょう。コツは舌の使い方です。通常、口の中に入った食物が舌の前側にあれば、舌の先端を使って食物を巧みに動かすことができます。しかし、舌の後ろ側に食物が行くと、反射的にゴツクンと飲み込んで(嚥下反射) しまいます。
早食いの人は、食物を舌の奥に置く癖があるので、噛もうと思ったときには、すでに食物は咽頭から食道へ飲み込まれてしまっているのです。したがって、よく噛むためには、食物を意識的に舌の前半部分(舌尖部)に置く必要があるのです。
トレーニング法としては次のような方法があります。水を飲まないように口に含み、舌先を動かしたり、軽く噛む練習をしてください。うがいをするとき、水がのどに人らないよう、舌の奥でのどを閉めますが、そのときの要領で水を飲まずに噛むことができれば、食物は絶対によく噛めるようになります。
この新しい噛み方が実際の食事で3日継続できたら、あなたは確実に肥満解消候補生です。そして、毎日、最低1〜2回体重計に乗り、最初のうちは増加がストップ(減少しなくてもよい) していることを確認できたら大成功です。
必ず2〜3週間後から体重が減少し始めます。ゆっくりと体重を落とし(1か月に1kg以内で十分) 適正体重に調整してください。
それでも、どうしても舌の使い方がうまくできない人は、ガムで練習することも効果的ですが、もっとよいのはおもちを使う方法です。おもちなら、一口30 回どころか、100 回噛みが必要になり、自然とよく噛むことが身につきます。
硬いおもちなら、電子レンジなどでやわらかくします。好みですが、磯辺巻き(のり巻き)、安倍川餅(きな粉)、ぼたもち(あんこ) あるいは力うどん(おもちの入ったうどん)、何でも結構です。
飲み込んでも安全な状態になるまで噛んでいると、噛む回数は軽く50 回を超え、100回くらいになるはずです。おもちをのどに詰まらせて、苦しい思いをしたり、窒息するのは、高齢者だけではありません。おもちを噛まない不注意な食べ方は命にかかわります。おもちは噛むことの大切さを教えてくれる祖先からの最高の贈り物といえます。
一口30回の噛み方の応用として、肥満の方のためにとくにお勧めしたい方法がありま
す。肥満指数が25以上の方は、ぜひこの方法を行ってみてください。
BMIと適正体重 - 高精度計算サイト
https://keisan.casio.jp/exec/system/1161228732
食事の前にガムを食べると十分な満腹感が得られると同時に、(食事量が約20〜30% 減少)食べ過ぎが防げます。また、食後にキシリトール入りガムリトールの割合ができるだけ多いものが望ましい) を食べるのは、(甘味料に占めるキシ口中の発酵を抑制し、口臭、虫歯、歯周病の予防にもなります。これは、とくに肥満の方でなくても、ぜひお勧めしたい習慣です。
さらに、この「咀嚼法」は、食事の開始から終了まで、医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士ならびに関係者が協力し、岨噛状況の確認、励ましや助言を行うことで、よりいっそうの効果が期待できます。このように記録をつける方法は、一口30回の咀嚼を身につけるのには非常に効果的です。肥満の方に限らず、学校などの食育の場面でも応用ができますので、噛み方の改善を望む方は真剣に取り組んでください。必ず効果が現われます。
]]>時代の食の復元実験で、戦前の普通の日本食では一食当たり14200回噛んでいることが観察されたの確認されています。
一口当たりでは、20〜30回程度の回数になります。これは江戸時代初期の徳川家康の食事の阻噛回数とほとんど同じですから、日本人にはおおむね400年間にわたって、一口当たり20 〜30 回程度、しっかり噛む習慣が伝承されていたと考えられます。
ただし、13代将軍徳川家定の食事では一食当たり1000回程度に減少しでいますが、現代人の620回よりはかなり多い数字です。
つまり、日本人は、戦後半世紀の問に急激に噛まなくなったといえます。一方、英国リーズ大学生物学教室の一口での最適な噛む回数として、理論的には20〜25回、被験者による測定では25〜31回という数値を科学雑誌「ネイチャー」に発表しました。
この理論値とは、食物を噛んで唾液と混ぜた場合、最も粘着力の大きな混合物が形成され、やわらかなお粥状態の塊(「食塊」といいます) をつくるために必要な阻噛回数です。
なぜ、こうした「食塊」と呼ばれる状態がよいのか、解説しておきましょう。日常の食事で、私たちは、おいしさ(味覚)や歯ごたえ(食感) は意識しても、「のど元過ぎれば、熱さを忘れる」ということわざがあるように、飲み込んだあとは意識しません。
しかし、いくら楽しみながらよく噛んで食べても、食物をのどに詰まらせては台無しです。食物が口から胃に入る過程では、次のような赦密な身体構造と巧妙な生理的反応が働いています。
まず、唇、舌、歯をじょうずに使って噛み(咀嚼)、口に入れた食物が唇からもれないように、舌の上にある食物を口の奥(軟口蓋) に送ります。
次に本人の意思と関係なく、食物は反射的にのどのさらに奥(咽頭部)に移動し、飲み込む(膝下)直前の状態になります。膝下反射により、舌骨(のど仏) が喉頭蓋を動かして気管にふたをし、誤飲しないように食物を食道に誘導するのです。
そして食道のぜん動運動によって、食物を胃に運びます食物の種類によって、最適な阻噛回数は多少異なりますが、よく噛んで食べるには、食物をある程度小さい破片に細かく砕くことが必要になります。そして、同時にその砕かれた食塊の粘着力が強いことも欠かせません。
なぜなら、食物を砕いても、粘着力がないとバラバラになって分散するので、飲み込みにくいからです。その食塊に適切な粘着力があると、飲み込むときに食物がばらけないで食道に流れやすく、食べたものが気管に入り込む危険を防いでくれます。
この研究は、実際に人を使って、食物を口に入れてから飲み込むまでの咀嚼回数を測定してみたところ、理論的に推定された食塊をつくるのに必要な噛む回数とほぼ一致したという実験報告でした。
つまり、食塊をつくるには、理論的にも実際にも25〜30回前後は噛むことが必要であるということを示しています。
これをもとに考えますと、とくに高齢者では食物が間違って気管に入って起きる誤嚥性肺炎を少なくするためにも、ふだんから一口30 回を目標として噛み、口の中で「食塊」をつくって食べる習慣をつけておくことが大切だということになります。
ちなみに、現代食を食べる大学生や小学生は一口10.5回という調査結果がありますから、通常の3倍程度噛む目標を立てて、しっかり噛む習慣をつけるとよいでしょう。それには、噛みごたえのある食物を意識してとるようにして、ゆっくりと楽しく味わいながら食べることが必要です。
]]>ところが、やわらかくて濃い味だと、噛む前に味蕾が反応してしまいます。最近、強い味の食品が好まれる傾向にありますが、これでは食物本来の微妙で繊細な昧、食感、を発しむことを放棄しているようなものです。
同時に、噛むことの多くの効用も捨てているのです。一般に噛みごたえのある食物のほうが、噛むことによる脳への人力情報が多く、脳を活性化させます。こういった噛むことの効果を最大限に得るためには、噛みごたえのある食材をじょうずに使うのがコツです。
繊維の多い切り干し大根などの乾物類、レンコンなどの根菜類、弾力性があって噛み切りにくい、きのこやタコなどを選べば、噛む回数は自然に増えます。
食卓にのぼるすべての献立を「噛みごたえ度」の高い料理にしようということではありません。いろいろな噛みごたえの食物をうまく取り混ぜて、食感も楽しめるメニューを工夫してみましょう。
豆腐料理でも冷ややっこだけでなく、高野豆腐、ゆば、油揚げ、がんもどきなど、日本にはすばらしい食文化が伝承されています。卵料理でも季節感あふれる多彩な具があふれる茶わん蒸しも意外に歯ごたえを満喫させてくれます。魚料理でも噛みごたえは魚の種類と調理・加工法によって、大きな違いがあります。カレーなら、カツカレー、ウィンナカレー、伊勢エビカレーもあります。
いつもの献立の中に何品か、よく噛む料理を入れるだけで、噛む習慣を改善できます。1口30 回、1回の食事で1500回、噛むように心がけましょう。これが、丈夫な歯と健康な体づくりの第一歩です。そして現代人特有の病、生活習慣病を減らすよいチャンスでもあります。
]]>人間の最大咬合力(咀嚼筋の筋力) はおおむね体重程度で、男性の平均瞭合力は1㎠
当たり約60kg、女性は約40kgです。
一般に、私たちが食べやすい食品とは、噛むときに加わる力が最大岐合力の25〜30%に収まっていることが目安となります。普通、食事をするときには、どの程度の力で噛んでいるのでしょうか?
食品ごとに必要な咬合力を数値化すると、たとえば、せんべいで1㎠当たり約14kg、ピーナッツで約12kg。みりん干しを噛むのには36kgの噛む力が必要ですが、ハンバーグやラーメンはそれぞれ2kgと0.6kgとなり、食品によって必要な瞭合力はこんなにも違います。
阻噛するときは、これだけの力が歯と歯ぐきにかかっているわけで、この力に耐えられる歯と歯ぐきの健康を維持しておかなければならないということです。
あごの力が弱くなっていれば、当然、咬合力も低下します。また、自分の歯を失い、総入れ歯になった場合では、咀嚼能力はふだんの35 %程度になってしまい、体重60kgの場合なら、最大咬合力は21kg程度にまで下がってしまうのです。
これでは、硬い食品を避けたくなるのも無理はありません。それでは、咬合力が強ければ、食物をおいしく食べられるのかというと、必ずしもそうではありません。
咬合力はあくまでも口の中に入ってきた食物を粉砕する力です。食物が口の中に入ってくると、前歯で切断する、臼歯ですり潰すなど、多様な咀嚼を展開しておいしさを味わうと同時に、噛んでいるという情報を刻々と脳に伝達します。
そして、その時間が長いほど、あるいは噛む回数が多いほど、脳神経細胞の活性化が効果的に起き、おいしく食べることができるのです。一般に、噛みごたえのある食品のほうが脳への人力情報が多くなり、やわらかくすぐ飲み込める食品は脳の活性化のチャンスを少なくします。つまり、普通の噛みごたえのあるものをよく噛んで食べることが脳の活力を維持するのに大切だということになります。
]]>みなさんは、1日に自分自身の唾液をどのくらい飲んでいるかご存知でしょうか? 口の中に分泌された唾液はすぐに飲み込まれてしまいますので、ほとんど知られていませんが、みなさんの想像をはるかに超える量が分泌されています。
寝ているときは、唾液の分泌は毎分0・1 mlと非常に少ないのですが、起きているときは、安静時でも就眠中の3倍の毎分0.3mlに増加します。
そして、さまざまな食品を使った研究により、食事中の平均的な唾液分泌は毎分4mlに増加、したがって、1日当たりの唾液量は約500~600ml程度(お銚子3 〜4本)と概算することができるとされています。
しかし、唾液分泌量は、個人差、生活環境、健康状態、年齢などによって大きな差異がありますので、1日1500~1800ml(お銚子8〜10本)といった報告もあります。
普通、食物をあまり噛まずにすぐ飲み込む人より、よく噛んでゆっくり食べる人のほうがはるかに多くの唾液を分泌し、飲み込んでいます。嚙めば噛むほど唾液は出ると考えて間違いありません。
すなわち、噛めば噛むほど、唾液の持つパワーの恩恵を受けられるのです。味や香りによって微妙に分泌が調節されていますが、歯ごたえのある食物、お酢、梅干しやスパイスの効いた食物なども当然、唾液の分泌を促進します。
また、ガムも非常に効果的です。ガムの噛み始めでは安静時の約8倍(味のないガムベース) から20倍(6種類のチューインガムの平均値)の唾液が分泌されますが、長時間(十数分)噛んでいても、安静時の2 〜3倍の唾液が分泌されるという研究があります。
普通、食物をあまり噛まずにすぐ飲み込む人より、よく噛んでゆっくり食べる人のほうがはるかに多くの唾液を分泌し、飲み込んでいます。噛めぼ噛むほど唾液は出ると血液中には、人体に有用な成分がたくさん含まれています。細菌に抵抗する成分、消化を助ける成分、昧をよくする成分、血管や胃などの細胞を増やす成分などで、噛むことで分泌された唾液は、体の機能を高めてくれます。
必要以上のものは体内から流れ出てしまいますから、多ければいいというわけではありません。しかし、適量以下では障害が起きます。それを防ぐためには、よく噛んで食ベることです。
よく噛んでいれば、ちゃんとその人の健康に応じた量の唾液が分泌されるようになっているというのが、人間の体のすばらしさです。ファストフードや、やわらかいグルメ食では唾液は十分に分泌されません。より噛みごたえのある、古くから伝わる健康に関する英知が詰まった伝統的な郷土料理などをじっくり堪能してみませんか?
唾液のお話の最後に、1つだけお伝えしておきたいことがあります。それは、年齢を重ねると唾液の量が少なくなることがあるということです。これは、唾液腺の老化も原因の1つですが、それよりもむしろ、ふだん服用している薬に主原因があるようです。
体の不調や障害に対して多くの薬が効果を発揮しますが、多くの薬は唾液の分泌量を少なくしてしまうことがあるのです。唾液量が少なくなると虫歯になりやすくなったり、がんなどの原因になったりすることがあります。慢性疾患などで常用している場合でも、人間が本来持って生まれた体を守る機能を大切にして、薬はできるだけ必要最小限にとどめるよう心がけたいものです。
]]>顔のきれいな人は、きれいな歯でしっかり噛んでいます。噛むことで頭蓋骨がバランスよく成長するとともに、顔の表情をつくる筋肉が鍛えられて、美しい笑顔が生まれます。
また、噛むことで分泌される唾液からのホルモンも「美人の条件」です。顔の皮膚細胞の代謝を活発にして、張りのある美しい肌を保てるからです。よく噛んでいる女性は、スリムで美肌といっても過言ではありません。
前述の上竣成長因子は、皮膚や粘膜、血管など多くの細胞の増殖を促し、細胞の新陳代謝を活発にして、皮膚の内部から活力のある美肌形成を促進させます。よく噛むことは、唾液分泌を促進させるので、健康美人になるための条件だといえるでしょう。
男性も無関係ではありません。青年期の雄マウスの唾液腺を摘出すると、なんと28日間で睾丸内の精子数ならびに生殖能が急激に低下することが、米国泌尿器学会の機関誌に発表されました。
そして、これらの生殖機能の減退は、上皮成長因子の投与で回復することが確認されました。唾液腺摘出後、29日目の睾丸100 mg中の精子の数は約1500万個で、正常値の約25%減少しました。
また、本来、精子は活発に動き回りますが、この運動能も約70%低下していました。そして、唾液腺を摘出した雄マウスは妊娠可能な雌マウスと一緒にしても消極的になり、妊娠した雌マウスの数は正常と比べ、6.6% 減少していました。
しかし、唾液腺を摘出しても、上皮成長因子の皮下注射を適量し続けると、精子運動能は正常値の5.9% までしか回復しませんでしたが、精子数ならびに受胎率は健康状態とほとんど同等レベルになりました。確かに、唾液腺摘出は精子形成を障害しますが、上皮成長因子を投与すれば、精子運動能の回復は不十分ながらも、ラットの男性機能は立派に回復したのです。
少し脇道にそれますが、最近、話題になっている「セックスレス」。もしかしたら、「噛まなくなった生活」と関連があるのではないかと思うことがあります。
噛むことは人問が生命を維持するための大本であると前に書きました。強い男になるための、すなわち性欲が強い男であるための大きな条件として、「よく噛む」ことが挙げられます。よく噛むということは、生き方がしたたかでイキイキしているということです。俗に「英雄色を好む」といいます。噛む力の強い者ほど精力が旺盛で、権力にも近かったのではないでしょうか。これは、人間にも動物にも当てはまることです。
食欲で強いほうが生き延びる、食欲も性欲も旺盛なほうが生き延びやすい。その根幹がよく噛むことであり、そのことで分泌される唾液の量なのです。逆に、噛む能力が弱いオスは、もともと生死をかけて戦う能力も弱ければ、子孫を残したいという欲望や能力も弱かったということになります。つまり、よく噛み、たくさんの唾液を出すオスは、強く生きられるうえに、生殖能力もあって自分の子孫を残すことができるというわけです。
最近になって、セックスレス・カップルになる原因は199 2年から2000年までの統計では「性嫌悪」の増加ぶりが目立つようになり、さらに注目されるのは、その男女別内訳です。当時は性嫌悪全体では男性81人、女性146人と女性に多く、6〜7年前までは男性のほうが少なかったのですが、最近では男性に多くなったといいます。
つまり、性嫌悪症といえば女性といっても過言ではなかったのが、そうした区別がなくなってしまったというのです。回答した男性81人は、全員が「獲得性」(あるときまではセックスができていた)、「状況性」(相手が異なればセックスはできる)、「心因性」(身体的疾患はない) でした。このなかでパートナーの個人的欠点を嫌うようになって生理的嫌悪感を持つようになった3 を除くと、それ以外のカップルは伸のよい関係を維持しており、性的ニュアンスを含まなければ、腕を組んで一緒に買い物に出かけることも珍しくないような状況です。
これらのカップルに共通する傾向として、パートナーに対する愛情の質が変化している点が挙げられるといいます。つまり、結婚当初は「男女愛」であったものが、生活を重ねるうちに「家族愛」 や「肉親愛」に変化して、パートナーを性の対象としては見なくなる傾向が認められるそうなのです。
性治療に長く携わる医師にもなぜ、かつては目立たなかった男性の性嫌悪が増えているのか、その原因はわからないというのが本当のところだといいます。
もしかしたら、この性的意欲の低下の原因の1つとして、「噛まない食事」を好むようになり、唾液の分泌が減り、その結果、噛む能力や戦う能力が弱くなり、同時に子孫を残したいという欲望や能力も弱くなってきたということがあるのではないかと考えるのです。
今こそ、人間として本来備わっている能力を十分に活用して健全で心豊かな生活を送るためにも、よりよい結婚生活を送るためにも、「よく噛むこと」をもう一度見直してほしいと願ってやみません。
]]>宮沢賢治風にいうなら、唾液は「ホメラレモセズ、クニモサレズ」というところですが、実はこういう存在があって、私たちは、雨にも風にもストレスにも病気にも負けない体を維持していられるのです。
これまで唾液腺から導管を通って分泌され、口の中を潤す唾液(外分泌) について述べてきましたが、次に、その途中で血液に取り込まれて全身を回るホルモン(内分泌)について述べたいと思います。もちろん、これも唾液です。
唾液ホルモンには多くの物質がありますが、その代表的なものとして、成長を助けるホルモンである上皮成長因子(EGF)や神経成長因子(NGF)があります。実は、唾液ホルモンの研究は、日本ではすでに1930年代から始められていました。最初にこれに着目したのは、東京大学で病理学を研究していたグループでした。
このグループは、唾液の中にはいろいろなホルモンを制御する中心的なホルモンがあるのではないかと考えて研究を始め、目標のホルモンを発見しました。このホルモンは、耳下腺( バロタイドグランド)にちなんで、「パロチン」と名づけられました。
日本全国の学者がこれに共鳴して、膨大な研究が行われ、唾液の持つ重要性が認識されてきました。一方、同じころかちょっと遅れてアメリカでも、が唾液に含まれる成長因子に着目して研究を始めました。そして、ネズミから唾液腺を取ると、歯が生えなくなり、毛のツヤも悪くなって、まぶたが開かなくなる現象が起きることがわかりました。
体の外側や皮膚の表層にある細胞のことを「上皮細胞」といいますが、歯や毛は一見、何の関係もなさそっな上皮細胞が変化したものです。たとえば歯は、口の中の上皮細胞が増殖し、エナメル質を形成するとともに、粘膜下の結合組織脂肪を誘導して、歯根となる象牙質、セメント質や歯根膜をつくります。
上皮細胞というと、体の外側を覆っている細胞のように思いがちですが、そんなことはありません。食道も、胃も、腸の粘膜も、みんな皮膚なのです。体の表面の皮膚が内側に裏返って入り込んでいると考えればわかりやすいでしょう。血管もそうです。
体のすみずみまで栄養を運ぶ血管の内側にある内皮細胞も皮膚と同系の細胞です。つまり、上皮成長因子は体の内外を問わず、体中の細胞を新しくする新陳代謝にとって、重要な役割を担っているのです。
ネズミから唾液腺を取ると歯や毛やまぶたに悪い影響が出ることから、唾液腺の中には上皮細胞の成長を促進させる因子があると信じて研究を進め、上皮成長因子を見つけました。さらに、唾液腺の神経成長因子を発見しました。この神経成長因子とは、体中に張り巡らされたセンサーで、神経の増殖をつかさどっています。
脳細胞の成長も促進します。ちなみに、この研究については、1968年、ノーベル賞が授与されました。つまり緒方教授グループが世界に先駆けて手がけた唾液由来のホルモンであるパロチンの正体は、上皮成長因子や神経成長因子など多数の生理活性物質の混合物だったのです。
これらのパロチンが血管を通って体じゅうを巡り、成長を促進したり、命を保つために黙々と働いているのです。唾液の成分がしっかりと全身に供給されていれば、若々しい細胞を保つことができます。一言でいえば、唾液には若返りの秘密が隠されているのです。
]]>ご飯をよく噛んでいると甘味が増してきます。これは、アミラーゼがご飯のデンプン質を麦芽糖( アミロース)にするからです。デンプンというブドウ糖のポリマー(分子のつながりの長いもの) をぶつ切りにして低分子(分子のつながりの短いもの) にする酵素がアミラーゼなのです。こ
のくらいの小さな分子になって、ようやく甘味を感じる神経に入り込めます。ご飯だけでなく、デンプン質のものは、よく噛めば何でも甘くなります。パンもうどんもそうです。早く食べることは、よく噛まないことですから、本当の甘味には到達しません。
もっとも、うどんをよく噛んで食べる人はあまりいないようです。香川県に行ったとき、讃岐うどんをよく噛んで食べていたら、店の人から「うどんはのどで味わうもんだ」と言われたことがあります。でも、残念ながら、のどでは甘味を感じることができません。それにしでも、本物のグルメか偽者かは、食べるスピードでわかります。
猛烈に食べるのが早い人、つまり早食いの人は、本物の昧がわかっていません。つまり、偽者です。もっとも、昨今のグルメは味がわかることよりも店の名前を知っていることが肝心だそうです。
さて、おいしいワインを利き分けて、客の好みに合ったワインを選ぶソムリエという職業があります。最近、日本でもソムリエを養成する学校ができています。ソムリエは、何十種類、何百種類ものワインの利き分けをしますが、このとき水で口をすすぎません。パンやチーズなどを食べるのです。硬いものをよく噛んで唾液を出して、その唾液で口の中を洗っているのです。ガスチンの効果を十分に知っていて、味覚を高めながら、同時に唾液で洗い流すという効果を持たせているのでしょう。
ガスチンには味覚を敏感にする作用があります。アミラーゼに「食物を分解して積極的に味覚を感じさせる作用」があるとすれば、ガスチンはそれを受け取る「味覚の末端域の感受性を敏感にさせる作用」があります。つまり、唾液はダブル作用で食物の味をよくしているわけです。
ワインといえば、友人がワイン通で、よく自宅でのワインパーティに招待されたものです。10人くらいで、それぞれワインを1本ずつ持って集まるのです。夕食後、各自が持ってきたワインを、銘柄を隠して並べます。スコアカードを持って、香りとか、渋味とかいろいろな項目を挙げて検討し、最終的に産地や銘柄、さらに何年ものかを当てるというゲームです。
なかなか優雅な集いでした。10銘柄くらいのワインを少しずつ飲んで当てるのですが、私たちもソムリエのように、パンをかじったり、チーズを食べたりして挑むのです。たしかに、このほうが、水で口をすすぐよりも味覚が研ぎ澄まされるような気がしました。というのも、水を口に入れると、それだけ唾液の出る量が少なくなってしまうからです。
とはいえ、銘柄のほうは、まったくといっていいほど当たりません。ワインではなくご飯だったら、コシヒカリだとか、ササニシキだとか噛めばたちどころにわかるのですが、味覚文化の違いでしょうか。このゲームでつくづく納得しました。
ソムリエのあの驚異的な利き酒の能力の1つは「唾液」のおかげなのです。舌の表面には味覚を感じる神経の先(味蕾)が露出していますが、これは唾液で潤ってはじめて敏感に味覚を感じられるのです。味を感じるのは唾液に溶けた味物質であり、カルキの入った水道の水ではその代用はできないということです。唾液はグルメの最も本質的な「武器」だったのです。
]]>これは唾液に含まれているラクトペルオキシダーゼという酵素に、いわゆる発がん怪物質として知られる食品添加物や生体の異常によって発生する有害な活性酸素を消去する作用があることを実験的に証明したものです。
ピーナッツなどにつくカビ毒、防腐剤、魚のこげ、牛肉のこげ、サケのこげ、たばこのヤニなど、いずれも私たちが普通に生活をしていて、日常的に口にする可能性の多い発がん物質ばかりです。唾液を混ぜる前と混ぜたあとでは、いずれも「変異原性の強さ」の値が大きく減少していることがわかります。
この変異原性の値とは、実験の結果、突然変異した細胞集団の数を示したもので、それぞれの物質が細胞をがんにする「毒」の強さを表しています。つまり、唾液を混ぜたあとで、この値が大きく低下したということは、唾液にはっきりと発がん物質の毒を消す効果あったということなのです。
さらに、西岡教授は唾液に含まれるこの酵素、ラクトペルオキシダーゼの作用には個人差があり、しかも個人の生活状況や体調(睡眠不足、疲労など)によっても影響を受けることも証明しています。
また、この酵素の作用は20歳代でがん抑制効果が最大ですが、小児や高齢者など年齢や老化によって低下することも報告しています。
個人の生活状況や体調で、この酵素のがんの毒消し効果が変わるということは、生活習慣が乱れると、がんに罹患しやすくなるということで、西岡教授のこの研究は、がんが生活習慣病の1つであることを証明した非常に価値の高いものといえるでしょう。
なお、このほか、唾液に含まれるアミラーゼ、カタラーゼなどの多くの酵素にも、発がん物質の働きを弱める効果があることが知られています。いずれにしても、酵素に働いてもらい、食物に含まれる発がん物質を中和するすには、食物をよく噛み砕き、しっかりと唾液と混ぜ合わせる必要があります。「よく噛んで食べる」ことががんの予防に役立つというのは、そういう意味なのです。
]]>本来、人問の体には、自分の体の構成要素ではないものが体に入ってくると、それを「異物」とみなして攻撃する働きがあります。これが免疫という生体防御機構で、体を守るための大切な働きの1つです。
この免疫システムは、まず第一に、外部から栄養を摂取しなければなりません。消化するということは、単に食物から栄養を吸収するということだけでなく、「異物」が持っている抗原としての働きが完全に消失するまで、食物を分解することでもあります。
食物の中に存在する分子構造で人にはない構造を抗原性決定群といい、これを破壊することが消化の重要な役割なのです。その大切な働きをする胃腸をしっかり手伝っているのが、歯(咀嚼)と唾液なのです。胃に入るまでに、食物が細かくなっていればいるほど消化しやすくなるというのは、誰でもわかる理屈です。しかもそれが、唾液というネバネバしたオブラートで包まれていれば、食道や胃への刺激も弱くなります。そのオブラート役をしているのが、唾液の成分の1つであるムチンという糖とタンパク質の複合体です。
よく噛めば食物は小さくなりますが、その1つ1つをムチンがきっちり包み込んでいるのです。人が口にする食物はそれぞれ、熱い、冷たい、辛い、苦い、しょっぱいなど、かなりの刺激性を持っています。味覚を楽しむのは脳なので、これらの感覚刺激は食味として脳にとってはうれしい要素なのですが、食物を分解して「自己化」しなくてはならない胃にとってはありがたいものではありません。
むしろ、刺激性の強いものは食道や胃壁を荒らす敵なのです。そこで、胃への刺激を少しでも減らそうと活躍しているのがムチンというわけです。ですから、塩辛とかキムチなどの刺激物が好きな人は、食べる際はとくによく噛むことが大切です。
辛さや苦さを味わうのは、口の中だけにとどめるということです。よく噛めば、脳も十分満足します。しかも、そうしている問に、唾液中のムチンががんばって刺激物をオブラートのように包み、飲み込みやすく、しかも胃に負担をかけないようにしてくれます。こう考えると、よく噛まないで、唾液が分泌されないうちに食物を飲み下してしまうことや、酒類の一気飲みがいかに体に悪いかがわかるでしょう。
また、熱いカレーなどをほとんど噛まずに飲み込み、食道で熱くてたまらず、あわてて冷たい水を飲むような食べ方は、食道がん、胃がんの原因にもなりかねませんし、胃腸の働きを低下させる最悪の食習慣といえます。
歯科医院を訪れた患者が、胃腸を悪くしているケースは少なくありません。歯が悪くなると、「よく噛めない→ 食物の大きな塊が完全にムチンにくるまれずに胃に入る1刺激物が胃壁を荒らす」と、絵に描いたような悪循環の図式ができあがります。
ですから、歯が悪くなれば、当然、胃腸も悪くなるのです。少しくらい歯がうずいても、なかなか歯科医院に行こうという気にならず、しばらく放っておく。するとそのうち胃が悪くなつてくる。それはよく噛めないことが原因だったわけです。歯と胃は連動していて、互いに助け合っていることを忘れてはなりません。
]]>その中の一つにIgA (免疫グロブリンA)があります。唾液に分泌される抗体で、外から入ってくる細菌の発育を初期段階で抑制する作用があります。初乳にとても多く含まれているとされ、生まれたばかりの赤ちゃんを細菌の感染から防ぐという重要な役割を担っているのです。
唾液には、常にIgA (免疫グロブリンA)が分泌されています。動物がケガをすると、よく傷口をなめたりします。唾液には抗菌作用があるということを、長い問の経験で知っているのです。
このほか、唾液には、味覚を敏感にする成分、タンパク質やデンプンを分解する成分なぞ、さまざまな成分を含んでいます。
再石灰化というのは、虫歯菌などがつくった酸で溶かされた歯の表面のエナメル質のハイドロキシアパタイト(無機成分)が、唾液などの働きで、再び歯の表面に形成されることです。
食事をとると、歯の表面についたプラーク(歯垢:口の中の細菌がつくり出した物質の塊。歯の表面や根元につくネバネバした皮膜のこと)。
そして、プラークの中の酸性度( pH)がおおむねpH5.4以下と高くなると、ハイドロキシアパタイトが溶け始めます。これを「脱灰」といい、虫歯の始まりとなります。
こうして口腔内は酸性になりますが、なんと唾液の働きによって40〜60分ほどで歯の表面の酸性度は中性になるのです。それで、一度溶かされたハイドロキシアパタイトが歯の表面に戻るのです。これを「再石灰化」といいます。
このように、歯の表面は、常に脱灰と再石灰化を繰り返しているのです。甘いものを好み、問食の多い人に虫歯が多いのは、脱灰されている時間が長く、再石灰化の時問が短くなってしまうためです。
ですから、唾液が十分に分泌できるようにして、「脱灰」と「再石灰化」のバランスを保ち、再石灰化能力を高める工夫をすれば虫歯を防ぐことができるのです。また、唾液中には、歯を強くするタンパク質が含まれています。スタテリンというのですが、これがだんだんと歯にしみ込んでいくと、歯がだんだんと固くなっていきます。
この成分は、酸に対する抵抗力があるので、歯を虫歯になりにくくさせているのです。食事をすると、口の中は酸性になるので、歯の表面が、わずかですが溶けてしまいます。歯のエナメル質はとても固いのですが、困ったことに酸にはめっぼう弱いという弱点を持っているのです。
食事をするたびに溶けていては、すぐに歯がボロボロになってしまいます。これを防いでいるのがスタテリンで、この成分により、唾液は歯を引き締めているのです。
]]>3つの中で3が一番大事な働きです。唾液腺には三大唾液腺(耳下腺、顎下腹、舌下腺) と、そのほか、口腔粘膜のあちこちに小さな分泌腺が分布しています。
唾液腺でつくられた唾液は、上顎第一大臼歯の頬粘膜、舌の下側の根元のほうにある小さな穴から出ていますが、分泌される唾液は、つくられる腺組織によって性質が異なります。
耳下腺でつくられる唾液は粘り気がなくサラサラしていますが、ほかの腺組織は粘りのある液を分泌します。こHれらの唾液腺は、交感神経と副交感神経に支配されているため、それをつかさどる自律神経と深いかかわりがあります。
食事によって、これらの唾液腺から唾液が分泌される具体的なメカニズムはこうです。
口の中に食物が入ると、食物から溶け出した成分によって、舌の粘膜が刺激を受け、口腔内で一定の食物感覚を得ます。すると、これを知覚する神経が刺激され、情報が脳に伝達されて唾液が分泌されます。
この過程で、自律神経の働きが重要になってきます。唾液腺は副交感神経と交感神経の支配を受けていますが、主に脳にある唾液核(延髄と橋との接合部付近)からの副交感神経の刺激で、唾液分泌の調節を行っています。
味覚や食物を噛むなどの機械的刺激は、この唾液核を興奮させ、唾液を分泌させます。同時に、精神的なイライラや恐怖なども唾液に影響を与えます。
たとえば、「生つばを飲む」という表現がありますが、精神的な緊張によって唾液が出にくくなり、のどが渇くために起きる現象です。これは、従来考えられていたような直接的な交感神経による分泌抑制ではなく、感情や情緒などがかかわる中枢神経系の上位中枢から唾液核への抑制作用によって起きる現象なのです。
さて、「つば」としてあまりイメージのよくない唾液ですが、実は私たちが普段気がつかないすばらしい数々の役目を果たしています。その1つ1つを紹介します。
嫌な相手に「つば」をかけるのは本当に嫌いな意思表示でしょう。ケチな人を指して「つばも出さない」という表現もあります。また、「天につばする」ということわざも、他人を害しようとしてかえつて自分の身を損なう、つまり、上を向いて唾を吐けば唾が自分の顔に落ちてくるというように、「つば」は汚いイメージで捉えられがちです。
「人間の体液で大切なものは? 」こうした質問をすると、、多くの人の順位は、1位、血液、2位、尿、3位、唾液という結果になります。
これは唾液が生体で非常に大切な役目を果たしているのにもかかわらず、一般にはそれが理解されていないことを表しています。私にすれば、単に理解されていないとか評価されていないというより、むしろ「とんでもない冤ざ罪」といえるくらいです。
唾液は汚いものという悪い風評を払拭し、人間にとって重要な役割を担っていることを正しく理解してもらいたいと思っています。
人間にとっての体液で大切なもののナンバーワンは唾液なのです。さて、どなたもご存知のように、血液は、全身の臓器や細胞に栄養や酸素を供給し、老廃物や二酸化炭素を運搬・除去するという重要な働きをする、人問にとって最も大切な体液です。
血液が通わない組織は生きていけません。また、尿は、血液が腎臓の糸球体という毛細血管でろ過された体液で、1日の排泄量は約1000~2000cc程度です。
腎臓から膀胱に流れていく尿細管で、選択的な再吸収によって、主にタンパク質や筋肉の代謝産物である尿素、尿酸、クレアチニンや多の老廃物などが濃縮されています。
尿の基本的成分は血紫(血液から血球成分を除去したもの)と類似しています。いずれも細胞の外側を流れる体液(細胞外液)ですから、血液と尿の共通した性質として、薄めの塩味があるということが挙げられます。
では、唾液はどうでしょうか? もし、「今日の唾液は少し塩味が強めかな? 」などと感じた人は何か体に異常があると考えなければなりません。おそらく、口内に炎症か出血があるものと思われます。
唾液は、血液や尿とはまったく異なる体液です。三大唾液腺である耳下腺(耳の下側)、舌下腺(舌のつけ板)、顎下腺(下あご)から、それぞれの導管( パパイプ) を通って、上顎第一臼歯の頻粘膜、舌の下側のつけ椒近辺から口の中に分泌されます。唾液腺の細胞では、毛細血管から栄養をもらって、唾液をつくります。細胞膜の一部がシャボン玉のようにふくれて、次々に細胞内の体液を取り込み、細胞外に放出したものが唾液の主成分です。
これを体外に放出するので、「外分泌」と呼んでいます。つまり、唾液は自分の細胞内液であり、「液化した自分」ともいえます。次に、唾液の成分の一部は再び毛細血管へ呼び戻され、全身に運搬されていきます。
これは「内分泌」と呼ばれ、唾液由来の重要なホルモンを全身に供給するための非常に大切な仕組みです。ある医学書によると、人間の顎下腺は睾丸とほぼ同じ重量、耳下腺は畢丸の約2倍、舌下腺は畢丸の3分の1なので、こ」れら三大唾液腺は合わせて畢丸の3.78倍の重量になると報告しています。
これは大変興味深い数字です。唾液腺は、生殖やホルモン分泌に大切な役割を果たしている畢丸よりも大きな分泌臓器でありながら、そこから分泌される唾液は、汚いとか、食物を飲み込むための水分程度にしか考えられていないのです。このように誤った歴史的先入観を変えてもよい時代になつてきました。
実際のところ、唾液がなくても、すぐに死ぬことはありません。しかし、ようやく最近の研究で、健康な活力をつくり出すために、唾液は非常に重要な働きをすることがわかつてきました。
唾液は、人体というシステムを円滑に維持・向上させる役割を担っていることがわかってきたのです。とくに、私たちがイキイキとした活力のある健康を維持するためには、唾液は血液や尿と同じように、あるいはそれ以上に重要な体液なのです。唾液が必須の水源地であるということは、強調してもしすぎることはありません。
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