肥満防止効果、ダイエット効果

「噛む」ことによる筋肉の動きやそれに伴う刺激などの感覚情報は、すべて脳に伝達されます。食物などを噛み始めると、それに伴う感覚情報が、まず歯を骨にくつつけている歯根膜などで捉えられ、脳の三叉神経中脳路核という中枢に人力されます。

すると、隣接する後部視床下部が刺激されて、大量の神経性ヒスタミン(脳内の神経と神経を連絡する化学伝達物質の一つ)という物質の生成が促進されます(。この「神経性ヒスタミン」という物質の生成が、肥満防止のカギです。

  1. 満腹中枢を刺激して、食べすぎを防ぐ この神経性ヒスタミンによって作動する神経回路が満腹中枢(視床下部腹内側核) を活性化することは、多くの研究者によって確認されています。したがって、食物を噛むという行為そのものが満腹中枢を刺激しますから、よく噛んで食べれば「もう、お腹がいっぱいになった」という感覚が生まれ、食べすぎを防いでくれるのです。しかし、よく噛まない「早食い」をすると、この満腹中枢は作動しません。ですから、ファストフードなどをよく噛まないで腹がふくれるほど食べても、ズボンのベルトを凄めて、さらに食べ続けてしまうのです。やわらかい食物は、よく噛まないでも飲み込むことができますから、とくにこの傾向が顕著になります。「好物は別腹」、「脳がまだ食物を欲しがっている」とか「おいしくてどうにも止まらない」という状態は、明らかに満腹中枢が働いていない証拠なのです。一方、満腹中枢は、別のルートでも活性化します。やはり、噛むという行為により、肝臓や筋肉などに貯蔵されている糖分(グリコーゲン) がグルコースという形で血液中に放出され、血糖値が上がります。この信号が脳に届くと、満腹感をつくり出すさまざまな化学物質が増えて、脳の満腹中枢を活性化し、食べすぎをストップさせてくれるのです。ネコの満腹中枢を破壊する実験をしてみると、満腹感が得られず、食物を食べ続けてしまい、子犬ほどの大きな身体になつてしまいます。「満腹を感じる」ことの大切さを考えて欲しいと思います。
  2. 内臓の脂肪を分解する また、噛むという行為は、体に蓄積されている栄養、とくに体脂肪の分解を促進させ、活動のためのエネルギーに転換することを可能にする「引き金」として、肥満防止に有効であることがわかっています。激辛、アツアツの鍋焼きやラーメンを食べると、誰でも汗ばみます。食物の温かさやトウガラシのカブサイシンなどが体温を上昇させるからです。しかし、冷麺や冷やし中華などを食べても、体が温まる経験をしたことはないでしょうか?実は、どのような食事をしても、よく噛むだけで、酸素消費量が急上昇して、体が温たいねつさんせいまるのです。これを、「食事による体熱産生反応」と呼びます。噛むことによる感覚情報はすべて脳に伝達され、神経性ヒスタミンが量産されることはすでに述べました。この神経性ヒスタミンによって、交感神経の活動を調節している脳中枢が活性化され、全身のエネルギー代謝が促進されます。したがって、冷たいものを食べても酸素消費量が増加し、体温も汗ばむほどに上昇するのですパrト体内の脂肪が燃焼して消費エネルギーが多くなり、体内に蓄積されるエネルギーが少なくなりますから、贅肉が取れてスリムな体に向かうというわけです。ヵナダのケベック大学のダイアモンド教授らは、イヌを使って食事による体熱産生の実験を行い、食後1〜2時間にわたつて、大変興味深い体熱産生の変化を発見しました(。このエネルギー産生には咀嚼をしたことで急上昇する第1相(食後40分以内)と、食物が胃に到達してからゆるやかにエネルギー産生が増加する第2相(食後40分~12 0分) とがあります。とくに、第1相のエネルギー産生は、脳にある満腹中枢を働かせる信号になります。よく噛んで食べれば、体熱産生反応が高くなり、消費エネルギーが多くなります。噛まない、噛めない食事をすると、体熱産生は低く、消費されるエネルギー量が少なくなり、余剰エネルギーが体内に蓄積されて、肥満傾向になります。人間でも同じで、現代っ子の噛まない食べ方は体熱産生が低く、肥満になりやすくなります。また、反対に普通の食事( アツアツでない) のあと、30分程度で体が温まり、タオル、おしぼりで顔を拭きたくなる程度に汗ばんだら、それはしっかり噛んだという証です。

この原理を知っていれば、次のような応用もできます。 たとえば、山で食物を持たないで遭難した場合を想定してみましょう。

このようなと き、動き回りすぎて体力を消耗させないこと、体温の低下を防ぐこと、眠らないことが 大切だとよくいわれます。 そこで、私からのアドバイスです。食物がなくなったら、まず、ベルト、タオル、靴 ひもなど、噛めるものなら何でもいいですから、それを「懸命に噛むこと」です。すると、 「噛む」ことで、体熱産生反応の第1相を作動させ、自分の体内に備蓄している脂肪や 糖質を燃焼させて、体温の低下を防ぐことができるのです。

このような場合、肥満体の 人のほうが、体内に脂肪という「携帯食」をたくさん持ち歩いているのだといえます。 同様の観点から、人間以外の動物に目を向けてみましょう。 胃袋が空っぽの飢えた動物は、獲物を見つけて跳びかかっていきますが、相手に噛み つくことによって、体内に蓄積されている糖質や脂肪を血液中に放出させ、激しい運動 を可能にするエネルギーをつくり出しています。この際に消耗した栄養物質は、相手に勝ち、それを食べることによって補給することができるわけです。

このように、噛むことは、自分で自分の体を食べること、といってもよいかもしれません。最新の研究では、大分医科大学名誉教授の坂田利家民らが、阻噛が脳内のヒスタミン神経系に作用し、これによって体内の内臓脂肪が燃えることを明らかにしています。

神経性ヒスタミンは、重要な生理活性物質(身体の正常な働きを促す物質) として炎症や免疫系の調整などにも影響を及ぼしますが、「噛む」ことによって神経性ヒスタミンが量産されると、満腹信号として働くだけでなく、食事の速度を調整する(がつがつ食べなくなる)ことがわかりました。

さらに、神経性ヒスタミンは交感神経の中枢核に働き、末梢でのエネルギー代謝を促進して、白色脂肪に作用することにより、脂肪を分解してくれることも明らかになつています。白色脂肪というのは、全身にありますが、とくに下腹部、お尻、太もも、背中、腕の上部、内臓の周りなどに多く、体内に入った余分なカロリーを中性脂肪の形で蓄積する働きがあります。体重がそれほど重いわけではないのに、下腹部やお尻などが太っている体型の方は、この部分に白色脂肪が多いことが原因です。

このように、噛むことで量産された神経性ヒスタミンは、食欲抑制、内臓脂肪分解に寄与し、肥満防止に大きな効果があるのです。しっかりよく噛んで食べることは、特別なダイエット法を講じることなく、また特殊な健康器具を使うこともなく、誰もができる一番簡単な究極の健康法であり、究極のダイエット法といえるでしょう。