嚙まないと近視になる

最近の若者は身長・体重こそ増え、見た目の体格はよくなっていますが、視力は衰えてきています。

平成15(2003)年度「学校保健統計調査」(文部科学省) によれば、裸眼視力1.0未満の割合は、小学生、25.6%、中学生47.8%、高校生60.0%。また、視力矯正が必要とされる「0.3未満の人」の割合も、年齢が進むにつれて急上昇していることが明らかになりました。

これについては、ここ数年、視力を調節する筋肉の問題、眼球が収まっている眼窩の骨の形の問題などからアプローチされており、両方が作用して、視力の低下を招いているのだと考えられています。

噛むことと視力の関係性は、一見、無関係なようですが、実は密接な関係があります。視力の低下はよく噛むことによって向上させることができる可能性が高いのです。

眼球のレンズである水晶体は、見る対象と眼との距離に合わせ、薄くなったりふくらんだりして、ピントを合わせます。そのピント合わせに大きな役割を果たしているのが毛様体筋という筋肉です。

水晶体は、毛様体筋の働きによって変形します。遠くを見るときは毛様体筋が緊張して水晶体は薄くなり、近くのものを見るときは毛様体筋が弛緩して水晶体は厚くなります。

噛むことと視力の関係について、この毛様体筋からアプローチしているのは、神戸山手大学の島田彰夫教授です。

子どもたちは噛まなくなっている、噛まないと顔の筋肉が衰える、すると水晶体が調節機能不全を引き起こす、その結果、視力が低下する、と島田教授は考えました。毛様体筋が、噛まないことで衰えているというのです。言い換えれば、噛むことで顔の筋肉が鍛えられ、水晶体の調節機能が高まり視力がよくなる可能性が高いというのです。

もう1つ、東京大学の比較人類学の遠藤万里先生のグループによる注目すべき研究があります。遠藤先生のグループは、よく噛んでいる人と噛まない人では眼窩の形が変わることに注目しています。

頭蓋骨の中で、眼球がすっぽり収まる穴が眼窩、眼窩の下の部分は上顎骨で、上は前頭骨や側頭骨など多くの骨でつくられています。

よく噛むか噛まないかで、これらの骨の形が変化し、眼窩の形が変われば、視力にも悪影響を及ぼすわけです。

さらに、京都大学再生医科学研究所の堤定美教授は、噛む力が弱くなると、あごの張り(「エラ」) が減少し、小さなあごになることを証明しました。

実際、最近の若者のあごは華著になり、歯並びが非常に悪くなってきました。しかも、これは下あごだけでなく、当然、上顎骨や頭蓋骨全体の変形にも関係します。すると眼萬の形も変化するので、近眼の原因になる可能性があるとも、堤教授は報告しています。

人間の体は全体が影響しあうひとつのシステムであることが、「噛むこと」と視力の関係にもおいても、顕著に示されています。食物をしっかり噛む習慣をつけて、よく「見える目」を取り戻してください。

関連ページ