よく噛むことで体の運動機能が向上する

噛むことで健廉を取り戻した実在の人物を紹介です。アメリカに住む富裕な時計商人、ホイレス・フレッチャー氏(1840 〜1919年)の話です。

彼は自らの実体験から発見した噛む健康法「フレッチャイズム」で健康を取り戻し、晩年は世界中を回って、この健康法を提唱しました。

彼は、体重が100キロ近くあったにもかかわらず、運動もせず、コックを5人も雇って世界中の美食を堪能するというぜいたくな暮らしをしていました。40歳のころになると、毎日だるいなど、体にさまざまな症状が現れてきましたが、それでもまだ、グルメ三昧を続けていました。

しかし、健康に不安を感じたフレッチャー氏が、ある日精密検査を受けたところ、医師からさまざまな病気になりつつあると指摘されました。そんな彼がある老人から伝授されたのが「噛む健康法」 だったのです。

それは、実にシンプルな2項目だけからなっていました。「本当にお腹が空いたときだけ食事をとる」「よく噛んで食べる」という2つだけだったのです。

フレッチャー氏は半信半疑で、一口で30回、食物がドロドロになるまで噛むことを心がけました。それが効を奏し、なんと5か月で30キロも減量でき、みるみる体力を回復しました。その結果、外で運動することにも意欲がわき、自転車競技に参加するほどになりました。

この噛む健康法は、大学の栄養学の権威者にも証明されて「フレッチャイズム」と名づけられました。フレッチャー氏のケースは学会でも発表され、のちに著書も出版した彼は世界的に有名になりました。

よく噛むこと」で全身の体力がついたり、意欲までわいてくるのはとても不思議なことです。噛むことがエネルギー代謝を促進し、全身の新陳代謝を促進させて、体力を高めているのです。それだけでなく、噛むこと自体が実際のさまざまな運動機能を向上させているのです。

ガムを噛む前としっかりと噛んだあとで体力測定をしてみるという実験を行ったところ、興味深い結果が出ました。背筋や握力などの数値がいずれも上昇するのです。脳の活性化についても同様です、脳中枢による運動ではなく、脊髄で行われている、いわゆる反射運動も大幅に向上します。

しんどいときには、「歯を食いしばってがんばろう」などといいますが、これは単に言葉のうえの話ではありません。実際に歯を食いしばることで、運動機能が向上し、いわゆる火事場の馬鹿力が出るようになるのです。歯を食いしばったほうが、よりがんばれるということです。

日本のアマチュアレスリング界の黄金期を築いた立役者である故・八田一朗氏は、かつて選手たちに割り箸にタオルを巻いたものを噛ませ、自分の持っている力を日ごろから最大限引き出す練習を取り入れたそうです。噛むことで運動機能が向上することを経験的に知っていたのでしょう。

もちろん、私たちはふだんの生活で噛むことにそこまでの効果は期待しないかもしれません。しかし、私は日々の食事を、短距離走の選手がゆっくりと時間をかけてジョギングをし、体つくっていく様子としばしばイメージをダブらせます。つまり、私たちが毎日の食事のときによく噛んで食べるのは、いざというときに全力投球ができるよう準備しているのです。

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