噛む力が健康な歯にも影響する

よく噛むことにより、物理的に十分な力があごの周辺の細胞に加わると、歯があごの骨にいっそう強くくっつくようになり、歯が丈夫になることが、さまざまな実験から明らかになっています。

まず、神奈川歯科大学では、ウサギの歯にバネを装着し常に歯に物理的な力がかかる状態にして実験をしてみたところ、骨芽細胞(骨の表面にあって骨をつくる細胞) への栄養( コハク酸)の取り込み量が増加していることがわかりました。つまり、栄養とまったく関係のないバネの力が、栄養の摂取量を増加させたのです。

今度は逆に、歯に加えられる力を減少させて実験を行ってみました。この実験にはラットを使いました。ラットの臼歯の噛み合わさっている部分を削り取り、噛み合わせができないようにしてみたのです。すると、歯とあごをつなぎ合わせている歯根膜細胞の合成能力は12時間で約3分の1に低下し、3日間で、細胞の合成能力はほとんど消失してしまったのです。これは、3週問たっても回復しませんでした。

以上の実験の結果をまとめると、次のようになります。歯に物理的な力を加えると、あごの骨の表面で骨をつくっている骨芽細胞が栄養を積極的に取り込もうとして、骨をつくる作用が活発になります。反対に、歯に加えられる力がなくなると、あごの骨と歯をつなぐ役割を果たしている歯根膜細胞の糖合成がされにくくなるのです。

つまり、歯に物理的な力が加えられれば、歯とあごの骨はより強く結びつき、力が加えられなければ、歯とあごの骨との結合皮が弱くなり、歯がぐらぐらしてくるのです。

ヒトの細胞では、次のような実験例があります。

神奈川歯科大学では、治療目的で抜いた歯の歯根の表面から、鋭利な刃物で歯根膜を採取し、この歯根膜を培養しました。約10 日後には歯根膜細胞は培養容器の壁面いっぱいにまで増殖して、とまりました。

さてここで、この細胞に力を加えてみました。すると、はじめはテニスボールのような形をしていた細胞から、足が生えるようにして突起が伸びてきて、療養容器の壁面に密着したのです。これは、細胞がヒトの体の中にあるときに活動しているのと同じ形なのです。つまり、歯に力を加えることによって、歯根膜細胞から突起が伸び、その先端に接着物質であるタンパク質( フィプロネクチン) がつくられて、歯とあごの骨が強力にくつつけられることが世界で初めて証明されました。

これら力を加えた細胞培養液には、歯3根膜細胞を呼び集める性質を持つ物質が合成されていることも明らかにしました。もう明らかでしょう。

噛めば噛むほど、歯とあごの骨は、強力にくつつくようになるのです。歯をしっかり支える丈夫な歯根膜をつくるためには、「よく噛む」というメカニカル・ストレス(機械的応力) が必要なのです。このように、よく噛む習慣を持つ人の歯はますます丈夫な歯になり、噛まない人の歯はどんどん弱い歯になっていくのです。