「ハム」と一致するもの

現在の食生活について、気づいてほしい大事な点は、肉や果物、野菜、海藻などの生ものを除けば、日常口にする食べ物のほとんどすべてが、工場でつくられるということです。
先程、ご飯が減った分、増えた食品があると言いました。それは、パン、砂糖、抽、アルコール、果物、牛乳や乳製品、そして肉や肉の加工品でしたね。この中で、果物と肉を除けば、すべて工場でつくられたものばかりなんです。
まず、パンがそうです。砂糖もそうです。砂糖そのものをなめているわけではありませんが、砂糖を大量に使ったお菓子を食べているわけです。油も当然工場でつくられますし、アルコールも工場でつくられます。牛乳も工場でつくられるのは当たり前ですね。
どこかの裏庭から牛のおっぱいを搾って、それを直接飲んでいるわけではありません。牛乳も午から搾った生乳を原料にして工場でつくるんです。ハム、ソーセージも同様です。
工場でつくられるわけですから、当然、化学物質だって増えてくるということになります。それから、精製食品が増えているんです。たとえば、私の家では、パンはあまり良くないと言いながらも、月に1度ぐらいはパンを焼きます。そのときは、全粒粉という真っ白ではない小麦粉を使うんです。

これは米で言えば玄米みたいなものです。茶色い麦の粉と、天然酵母を使って焼くんです。そうすると、何時聞かたって包丁で切ったらぼろぼろです。
パンくずだらけになってしまいます。ところが、工場で精製された小麦粉でつくつた真っ白でふわふわしたパンは、1週間たって包丁で切っても、まだぼろぼろにならないんです。つまり、工場でつくられるものの原則というのは、長期輸送、長期保存できる製品をつくることなんですね。昔の木村屋のアンパンなどは、いくら当時流行になったといっても、しよせん買いに来るのは近所の人たちだけだったんです。豆腐屋さんだってそうですね。昔は近所の人が、自前の容器をさげて豆腐を買いに行ったものですよ。つまり、昔のように、パンや豆腐を近所の人だけが買っていた時代には、防腐剤なんか必要なかったんです。ところが、九州でつくつたものを北海道にまで運んで売るような時代になると、そうはいかなくなります。運んでいるうちに腐ってしまうからです。また、小麦粉も真っ白なものを使わないと、保存がむずかしくなってくるんです。全粒粉は虫がつきやすいんです。このように、ご飯を食べないようになってから、工場製品が増えるようになつてきたわけです。それが現代の食生活の一番の変化だと思います。

ソーセージ ハム 危険性について私なりの意見を書いてみようと思います。

欧米の場合は、パンを主食とは呼ばないんです。ところが、日本の場合は、ご飯を主食と言っています。これがなぜなのかということを少し考えれば、こんな考え方は、勘違いだとすぐわかります。
この勘違いを生んだ日本の栄養学というのは、明治時代にドイツから学んだのが始まりです。
その頃は衛生学と呼んでいたんですが、ドイツの考えが基本になっていました。ドイツという国は、緯度でいうと北海道よりももう少し北にあります。
北海道は梅雨がなく寒い。だから、植物は育ちにくい。ドイツもこの北海道のような環境なんですね。逆に、雨が多く蒸し暑く、雑草とりに苦労するほど植物が育つのが、本州より南です。出発点となる環境が、日本とドイツとでは大きく違っていたんです。ドイツあたりは、寒くて雨が少ないですから、パンで腹いっぱいにするほど小麦が育たなかったんです。
しかも、小麦というのは畑でつくりますから、米と追って毎年同じようなべースで収穫できないんです。

小麦をつくるとその分、土地がやせてしまうからですね。一方、米の場合は、今年は100俵、来年も100俵と、何年も続けて同じようにとれるんです。つまり、土地の生産力が落ちないんです。だから、水田というのは、世界最高の食糧生産システムと言われています。ところが、畑で小麦をつくると、下手をすると、1年間、土地を休ませなければいけなくなります。だから、小麦で腹をいっぱいにするというのはむずかしいのですね。

どこの国でも食生活で一番困るのは、冬を越すことです。小麦が不足するドイツの人たちは、秋になると大量に豚を殺して保存し、冬にはそれを食べて過ごしてきたわけです。なぜ、豚は殺すのに牛や馬はあまり殺さないのかというと、豚は人と同じものを食べるからなんですよ。牛や馬は草を食べさせておけばいいんです。
豚は人間と同じ食べ物を欲しますから、冬飼っておくと、人の食べ物を分け与えなければならなくなります。だから、豚には秋口にみんな死んでもらうわけで恐す。

そして、保存するために塩漬け肉にして、冬の間、それを樽から取り出して、焼いたり煮たりして食べてきたわけです。そして、そのうち賢い人が、腸に肉を詰めたソーセージやハムという保存しやすいものをつくつたわけです。

そのときに、しよつぱいだけのハムを、保存よくおいしくする魔法の粉を発見したんですね。それがコショウだったんです。コショウを入れると、肉の保存はよくなるし、おいしくなりますから、コショウの需要が一気に増えて、高価になりました。それで、コロンブス、マゼランなどが活躍したんです。ですから、ドイツのソーセージやハムは、冬を越すための長年の苦労が生んだ、素晴らしい伝統の知恵だと思いますね。

ただし念を押しておきますが、ドイツの人たちの話であって、私たち日本人にとってソーセージが素晴らしいかどうかという話ではありません。
それから、スイスの山奥の人たちなども、冬になると食べるものが不足するので、小屋の中にタイヤのようなチーズをたくさん積んでおいて、パンか何かにつけて食べていました。つまり、パンで足りない栄養素をチーズで補ってきたんです。ドイツやフランスの食生活をわかりやすく表しているのは、ミレーの「落穂拾い」という絵です。あの絵を見て、豊かだというイメージはわかないですよ。何か暗いというか、厳粛な雰囲気が漂っている絵です。


これは、生活の厳しさを表したいい絵だなと思いますね。つまり、豊かだったからではなくて、食べ物がなかったからソーセージやチーズを食べてきたともいえるわけなんです。ヨーロッパでも南のイタリア、スペイン、ポルトガルになると、植物が育ちやすいですから、スパゲティのようなパスタや、パエリヤのようなご飯など、植物性の食べ物が多くなってきます。一般的に、寒い地方ほど動物性食品が多くなります。っいでに言うと、着ているものも、北に行くほど動物の毛皮などが多くなります。動物のものを身につけ、動物を食べるのは、植物が育たないからそうなるわけですね。ところが、日本、フィリピン、タイと温暖になるにつれ、植物が多く育ちますから、植物繊維の衣服を身につけ、植物性のものを食べる傾向が強くなるんです。
一般的に言えばそうなります。つまり、日本でご飯をたくさん食べてきたのは、自然が豊かで米の収穫量が多かったからなんです。貧しいからではありません。欧米の食生活が理想であるというのは、錯覚だったんですね。

 ハム 発ガン性 疑いが言われる添加物が多い