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よく噛んで食べると記憶力がアップする

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さて、このような動物実験での変化は、実際に人問でも起きるのでしょうか? そこで、

人問の場合は、実験で歯を削ったり抜いたりするわけにはいきませんから、ガムを2分問噛んでもらい、噛む前後の脳の様子を観察しました。脳卒中や脳の機能障害などを調べるのにも使われる機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、岨噂をさせると脳のどの部分が変化するかを研究したのです。

その結果、海馬の領域は、ガムを噛んだあとで明らかに活性化していました。このガム効果は、若者の場合はあまり大きな変化が見られなかったのに、高齢者の場合にとくに顕著で、海馬だけでなく、脳の高度な統合処理機構を持つさまざまな連合野の神経細胞をも活性化させることが明らかになったのです。

若者は、もともと脳の活動レベ〜が高いですから、fMRIの画像の変化としてはそれほど大きく表れません。ところが、高齢者の場合は、海馬が萎縮して情報が入りにくい状態になっているところへ情報が入ってくると、額のすぐ後ろにある連合野などの高度な統合処理機構が処理をして、海馬の働きを助けるのです。

そのため、「噛むこと」によって、海馬だけでなく連合野などにも活性が見られたのだと考えられます。

さらに、ガムを噛む効果について、海馬の機能を見る短時記憶のテストを試してみました。これは被験者に風景を見てもらい、その風景がどのくらい正確に記憶されているかを調べるという方法です。

まず、それぞれの被験者の生活環境になじみのある風景の写真を順番に見せたあと、前回見せた写真の一部を微妙に変化させた風景写真を織りまぜて見せ、前回見た写真かどうかを当ててもらうという実験です。最初に写真を見るときに、ガムを噛まないで見た場合と噛んだあとに見た場合で、記憶力がどう変化したかを調べました。この結果、ガムを噛んだあとでは、すべての被験者において成績がよくなるという結果が得られました。したがって、この方法により、噛むことは認知症の予防に役立つ可能性があると考えられます。この研究結果を臨床に応用するため、今度は高齢者を対象に

  1. よく噛んで食べる
  2. ひとりで食べない
  3. 一品でもいいから食べたいものを食べる

という3点を守って2週問食事をしてもらうという実験を行ってみました。すると、海馬の機能は劇的に高まり、表情がイキイキとしてくることが明らかになりました。

これは、当初の私たちの目論見どおりでした。早期の認知症や認知症予備軍に対して、岨噛という行為をうまく取り入れた予防医療を行えば、海馬の細胞は増加し、症状は改善もしくは発症しないという可能性が出てきたのです。

この「噛むこと」のパワーには驚かされます。しつかり噛んで海馬を活性化し、記憶力をアップさせない手はありません。明日からといわず、今日から1口30回の阻噂とガム(ガム噛み)を実践してみませんか?

海馬の脳細胞は年をとっても増やせる

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一般に、人間の大脳皮質の神経細胞の数は140億個以上もあります。中枢神経全体では、神経細胞の数は1000億と2000億の間と推定されています。

膨大な数であるような印象を受けますが、私たちの脳の神経細胞は1日10万個という猛スピードで死に、老化とともに脳が萎縮し、機能が低下していくのです。

そして、このような脳神経細胞のシナプス(ネットワーク)を介して、人間が五感(視覚、聴覚、喚党、味覚、触覚) から得た情報は、海馬に一時的に記憶として保管され、その記憶は海馬が判断し、適切な保管場所に移されます。

海馬は、記憶をつかさどるだけでなく、ものや自分の位置関係を知るための大変重要な役割(空間認知能)を担っています。ところが、年齢とともに、人問誰しもが避けて通ることができないのが海馬の萎縮なのです。

海馬は、認知症(痴呆症)になる、ならないにかかわらず、小さくなつてしまいます。そして、これが極端に薄く、紙切れのようになってしまうと、認知症に陥ります。

ですから、老眼になるのと同様に、記憶力が年齢とともに低下するのは、中高年者の脳に起きる自然な老化現象であり、憂慮すべきことではありません。しかし、ここで注目すべき事実があります。減少するだけの脳のほかの領域の神経細胞とは反対に、海馬の神経細胞は鍛えれば増加するのです。

しかも、それは「噛む」ことによって活性化させることができます。「本当に? 」という疑問が聞こえてきそうですね。「歯は食物を噛むためのもので、頭をよくするなんて信じられない」と。果たして本当に「歯」と「海馬」に関係などあるのだろうかと半信半疑でした。

ところが、実際に研究を進めてみると、次々と興味深いことがわかってきたのです。最近では、よく噛むと海馬の神経細胞の活性を向上させるという事実が証明されました。人の年齢に換算すると65歳くらいの老齢期マウスを使い、学習・記憶力を測定するために、水迷路テストを行いました。

小さなビーズで水面下を見えなくしたプールで、マウスを遊泳させます。水面下には一部、マウスの足が届く高さに小さな休憩台が隠されています。すると、正常なマウスを使った実験では、マウスは最初、遊泳を始めて休憩台を見っけるまでに60秒程度かかりました。が、スイミング学習を1日に4回、1週問続けさせると、数秒で出発点からほとんど直線的に休憩台に到達するようになりました。

つまり、老齢期のマウスでも、規則正しく学習をすれば、自分の位置と周囲の景色から休憩台の位置を確実に学習し、記憶能力(空間認知能) を向1 させることが示されたのです。

次の実験では、奥歯( 顎臼歯)を削り取り、噛みにくい状態にしてみました(臼歯切削群)。すると、このマウスは1週問学習しても目的地を覚えられず、迷い、到達時間を謝秒以下に短縮することはできませんでした。

白歯を削られたマウスの記憶力は、健全なマウスの5分の1 程度に低下していたのです。

さらに、次の実験では驚くべき事実が観察されました。この実験では、削り取った白歯を1週間後に治療して、よく噛める状態にしました(歯冠修復群)。

すると、学習・記憶力が日ごとに向上し、1週間後には劫秒前後で休憩台に到達するようになったのです。づまり、歯の治療が、記憶力を釣50% 回復させたと考えられます。

これらの学習・記憶力の評価は、マウスの遊泳時間を基準にした観察結果ですが、果たして、本当に脳の海馬の神経細胞にも変化があったのでしょうか? このことを科学的に証明するために、学習を終えたマウスの脳を採取し、海馬の切片をつくり、神経細胞の数を測定しました。

すると、海馬の神経細胞の数は、実験の奥歯が正常なグループは1 2m当たり約900個で、実験の歯を削られたグループは約500個と、実験の約56%まで減っていました。

そして、実験3の歯の治療をして噛める状態にしたグループでは約700個で、約78% まで回復していたことが確認されたのです。

これは、歯がよく噛めなくなると、記憶を失ったり、迷子になったりの認知症状態になり、歯の治療をすると、記憶力が回復しうることを示しています。

また、噛めないマウスが自分の位置を覚えられない原因として、噛めないことによって慢性的にストレスがかかり、脳内の神経伝達物質が少なくなり、障害を起こしていることが考えられるということもわかってきました。

脳の若返りには良く噛むこと以外に若返りの大事なポイントがいくつかあります。脳は、いつでも鍛えられるのですが心掛けと生活習慣が大切です。海馬を萎縮させないために脳を鍛える習慣が大切です。

頭を使えば脳細胞は増加する | 健康メモ
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好きなことを続けると脳は元気になる | 健康メモ
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元気な脳づくりは朝食が大事 | 健康メモ
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顎を動かすということは脳のジョギングと一緒

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さて、認知症を考える前に、「運動と脳」の関係について考えてみましょう。

子ども時代に野球、サッカー、鬼ごつこなど、外で遅くまで遊びすぎ、「遊んでばかりいないで、少しは勉強しなさい」と、お母さんに叱られた思い出はありませんか?

ところがこの母親の常識、半分は正解ですが、半分は間違いなのです。つまり、勉強しなければよい成績にならないのは本当です。しかし、遊びを通した運動は、筋肉や骨を鍛えるだけでなく、頭をよくすることも科学的に証明されているのです。

24年ほど前(1995年)、米国カリフォルニア大学心理生物学部のS・A・ニーパー氏らは、ラットの運動量を増やすと記憶をつかさどる海馬の神経活動が活発になることを世界ではじめて証明しました。

つまり、運動(走る)は記憶力の向上に密接に関係していたのです。しかも、走ることによってとくに活性化される部位は、海馬の自分の居場所を認知する能力に関係する領域や大脳皮質連合野(情報を統合、整理する能力)の領域でした。

さて、ここでちょっと考えてみてください。走ることは手足の運動で、噛むことは下あごを上下左右に動かす運動です。

私は、同じ運動ならば、噛むことも脳に刺激を与えて脳を活性化しているのではないか、その科学的根拠をつかめないか、と考えました。脳神経科学研究グループとの共同研究がスタートしました。ここで、このグループと多くの研究協力者の真摯努力によって発見されたすばらしい成果を紹介してみましょう。

噛むときの口を動かす脳の領域

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1938年、カナダの神経生理学者ペンフィールドはてんかん患者の了承を得て、開頭手術を行い、大脳皮質のさまざまな部位に電気的な刺激を与えて、患者がどのような刺激を感じているのかを聞き取りながら調査しました。

これは、脳のどの部分を刺激すると身体のどの部位が動くか(運動野)、そして、どのような感覚を感じるか(体性感覚野)を明らかにした貴重な人体実験です。

現在、このような実験は到底許されるものではありませんが、脳の働きを理解するための、脳治療の発展に直結する重要な基礎的情報として、医学生の教科書にも掲載されています。

手足を動かす領域は頭頂部と側頭部の上部側に存在し、下部側は顔と口の動きを支配していますが、その領域の割合は、ま半々になっています。体性感覚野(中心溝の後側)は全身からの感覚情報(冷、寒、痛、触など) の受け皿になつていますが、支配領域の広さも、運動野とほぼ同じ比率になっています。

脳の表面に描かれた奇妙な顔と手足を持つ絵はホムンクルス(「小さな人間」の意)と呼ばれ、脳が身体を支配する領域の大きさに応じて体の部位を誇張して描いたものです。

ホムンクルスの身体は相当ゆがみ、手指は大きく長く、顔や口も異常に大きく描かれています。とくに、運動野での咀嚼、飲み込み(膝下)、唾液分泌、発声などにかかわる部位の働きと体性感覚野での歯、上下唇、舌、のど、顔、鼻、目などの働きが連動している様子がうかがえます。

そして、これらの占める割合が運動野や体性感覚野のほぼ2分の1程度にもなり、噛むという行為が脳に与えている影響の多大さを示唆しています。さて、脳の血液量は、全体的に増えるのではなく、手が動くときには脳の手の領域で、足が動くときには脳の足を動かす領域で増えていきます。

口と関係する脳の部位は広いので、口を動かすと、効率よく脳の血流をよくすることができるといえます。つまりよく噛んで口を動かすだけで、脳の血流が増え、脳は活発に働き出すのです。口というのは、髪の毛がl本人ってきても感じるくらいに非常に敏感な器官で、岨喝して食物を飲み込むだけでなく、味を感知したり、舌や唇を動かしてしゃべったり、表情をつくつたり、実にさまざまな働きをします。

体性感覚野における口の占める割合が非常に大きいのは、人力される情報量が他の感覚器に比べて格段に多いからであるといえるでしょう。

「食べること=脳を活性化すること」なのです。歩くのが嫌い、車の送り迎えが好き、鉛筆も自分で削れない、体を動かすのが苦手( 体育が不得意)、コンビニエンスストアやファミリーレストランでやわらかくおいしいものを好んで食べる、いつでもどこでも間食する、そして肥満傾向がある、そんな児童は脳神経細胞の発達に不利な生活習慣が身についていると断言できます。

また、一度食べたものは味も舌ざわりも覚えているように、噛むことは記憶とも大いに結びついています。

たとえば、高齢の入院患者が口からものを食べられなくなつたとき、鼻から管を通して栄養を与える経管栄養や点滴に替えたとたん、認知症(痴呆症)になりやすいことは、噛むことと脳の働きのつながりが非常に強いということを示しています。

そこで、さらに一歩進めて私たちの研究グループが着眼したのが脳と岨噂の関係で、とりわけ脳の中でも記憶をつかさどる海馬という部位と岨噂の関係でした。

脳と岨噂の密接な関係を見出すことができれば、岨噂という刺激によって、脳の神経細胞を刺激して活性化させ、認知症を防ぐことができるのではないか、そう仮説を立てたのです。もし、日常、誰もが行っている「噛む」という行為によってそれが可能になれば、初期の認知症患者や予備軍にとって大きな福音となります。

咀嚼が変えた脳の重さ

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人類が誕生してから400万年といわれていますが、それ以前、人類が人類になるずっと以前から、「噛む」という行為は行われてきました。地球上の動物は、例外なく何かを食べなければ自分の生命を維持できません。

つまり、噛むことは、人類の生きるための本能として、悠久の時問の流れの中で、しっかり体の遺伝子に組み込まれています。

サルからヒトへの進化にも長い過程があります。その問には多くの環境変化がありましたが、食生活が脳の重量を400g 前後から1400g へと変化させたのです。人類の祖先としてルーシーという名前がつけられた350万年前の女性の猿人は、身長110cm、体重27kg、脳の重さ400gでした。

猿人は食物を牙で引き裂いて食べていましたが、その後、道具をつくり、火を使えるようになった原人は、火で焼いて細かく噛み砕いて食べるようになりました。

原人の脳は前頭葉がそそり立ち、猿人の2倍以上の1000~1200gになりました。さらに、器用に進化した手足を使ってさまざまな道具や調理法も編み出し、あごの微妙な動きと、舌と鼻からの味と匂いの情報を大量に脳に送り込むようになつたことにより、牙を食物をすり潰すことのできる歯に変化させ、現代人の1400g の脳への発達に拍車をかけました。

以上のように、進化の過程で「噛む」ことが脳の重さを増やしていった、ということです。

老化防止は噛んで脳に「喝」

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『高齢社会自書』によると、今から16年前の2003年10月1日には、65歳以上の高齢者人口は2431万人であり、総人口に占める割合(高齢化率)は19.0% でした。

2050年には、35.7% (3人に1人) になるとの予測。いよいよ「超」高齢社会に突入しますが、同じ長生きをするなら、病身で生き永らえるより、健康で豊かな高齢期を迎えたいものです。

そのために今、求められているのは、自分自身の生活習慣の改善ではないでしょうか。そして、それは、誰にでも今すぐ実行できることです。そして健康で丈夫な老後を迎えるためにとても大切なことなのです。

生活習慣を見直すにあたり、まず考えたいのが食事。どれだけ楽しく食事をしているか、食べる量は適量か、この2点が健康のバロメーターになります。無理をせず、年齢に応じた自分なりの生活リズムを守る。そして、栄養バランスがとれた「おいしい」と思える食事を選んで、楽しみながら、よく噛んで食べているなら、あなたは最高の健康法を獲得している達人といえるでしょう。

人問は誰しも、加齢とともに「食べる機能」も徐々に衰えてくることは避けられません。高齢になるにつれて、

  1. 歯が悪くなり、うまく噛めなくなる
  2. ご飯よりお粥、やゎらかいものを食べたい
  3. 味を感じにくくなる(とくに塩味、甘味)
  4. 唾液の分泌が少なく食べにくくなる
  5. どに食物が残った感じがする

などの変化は、いずれも自然な老化過程の初期症状です。しかも、噛まないようになると、いっそう急速に老化が進み、認知症(痴呆症) へと至る可能性も高くなります。ですから、このような症状に気がついたときが老化防止のチャンスです。

早めに専門医や関連する専門家と相談しながら、これらの症状の改善に気を配ることが賢明です。神様が教えてくれる「初老の兆し」を放置することが「老化と病気の始まり」になります。

また、高齢期における孤独感や疎外感、生きがいの喪失などは、食欲低下の原因になり、食欲低下は筋力、気力の衰えへと進み、さらに食べることが困難な状態になるという悪循環に陥ってしまいます。

さて、「食べる機能」はすべて脳で統合されています。口は手や足と同様に、大脳を前後に分けている中心溝のすぐ前にある大脳皮質運動野の指令によって動かされています。

そして、中心姓溝の後ろにある体性感覚野が触覚、圧覚、痛覚などの感覚をつかさどり、さらに、食物を目で見て、匂いを喚いで、味を調べて、食べてもよいかどうかを判断します。

そして、食事を介した楽しい思い出や、おふくろの味を懐かしむ人問らしい情緒感、また政治や歴史、人生観についての議論などの高次精神機能も含め、このように口は、実に多くの脳神経細胞と連動する脳神経ネットワークを形成しているのです。

だからこそ、老化に気づいたら、「食べる機能」、とくに「噛むこと」を介して、自分の脳の働きに「喝」を入れることが必要です。肉、魚、野菜などの食物の持つ栄養といぅ面ももちろん大切ですが、食物が持つ固有の「歯ごたえ」や「噛みごたえ」を堪能(脳に入力) することが脳の活性化、すなわち老化や認知症の防止、記憶力の強化に不可欠であることが、科学的に証明されてきました。

若々しい活性化した脳の健康を取り戻すために極めて効果的な手法が「よく噛んで食べる」ことである、そういっても過言ではないのです。

胃に負担をかけない噛み方

て、みなさんは、食物はいつでも人間の味方だと思っていませんか? 残念ながら、どんな食物でも、人間にとっては基本的に「有害物質」なのです。

たとえば、牛乳はバランスのとれた栄養食品です。しかし、十数年前の不幸な症例ですが、牛乳を直接、静脈注射された患者さんの死亡事故が起きました。

牛乳に限らず、肉、魚などはいずれも大切な栄養源ですが、どんな食物でも人の体に直接侵入した場合、本来、人問の体に存在しない物質ですから、「異物」(人体にない物質) と判定されます。

すると、病原菌やスギ花粉が体内に侵入したときと同様に、異物の有害作用を消去する免疫反応が起こります。

しかし、免疫反応はいつも人の味方として、体を守ってくれるとは限りません。逆に、新しい病変の原因になる場合があります。これが不都合な過敏反応またはアレルギーと呼ばれる一連の病気で、

ときには命にかかわる重篤な症状を起こします。カニ、エビ、青身の魚などは、胃の調子が悪いときには、人によってはじんましんやアレルギー、アトピー性皮膚炎などの原因になります。

ここで、口から食べた食物が胃腸で消化・吸収される仕組みをみてみましょう。まず、口から入ってきた食物をよく噛んで細かくします。細かく噛み砕かれた食物は唾液という体液に包み込まれることによって、それぞれの食品が持つ特有の刺激性が和らげられます。

たとえば、塩味の濃いおかず(塩辛、つくだ煮など) もよく噛んで唾液と混ぜられることによって、口腔、喉頭、食道、胃の粘膜への過剰な刺激が和らげられるのです。

阻曝された食物は、すべてそのまま食道を通過して胃に入ります。すると、胃粘膜細胞から大量の胃液(1日平均2~3リットル)。

強酸性の胃酸や消化酵素などが含まれる) が分泌され、肉や魚などのタンパク質は低分子のペプチド(少数のアミノ酸が連結したもの)に分解されます。これら分解作用によって、食物は、体内においてほとんど異物として反応しなくなります。さらに、十二指腸や小腸上部、膵臓からの分解酵素によって、ペプチドはアミノ酸にまで分解されます。

この状態にまでなれば、血液中に吸収されても、安全な栄養素として自分の体づくりに使えるのです。一方、ご飯やパンに含まれるデンプンは、タンパク質の100 倍以上の大きな分子かなりますが、胃ではほとんど分解されません。

唾液や階肝臓から分泌されるデンプン分解酵素であるアミラーゼで分解されて小さな分子のブドウ糖となり、小腸から血液中に吸収されます。このように、食物を食べるという行為、さらには胃や腸での消化作用が、「有害な食物″」を「有益な栄養源」に変身させ、人間の免疫機能を守る重要なプロセスであるということがおわかりいただけたと思います。

あなたはよく噛んで食べていますか? 「あまりにおいしかったから」とか、「忙しいから」「時間に遅れそう」などの「いつもの癖」であまり噛まずに食べてしまってはいませんか?

ダンプカーから砂利やゴミを落とすかのように、食物を噛まないで胃に流し込んでいませんか?よく噛まないで飲み込まれた食物は、当然のことながら消化するのに時間がかかります。

すると、強い酸性作用を持つ胃液は食物を分解している問中、自分自身の胃壁にも負担をかけます。

これが胃弱や胃腸炎などの消化器疾患を引き起こす誘因となり、胃腸の働きを弱めてしまいます。よく噛むことは、食物を効果的に消化すると同時に、自分の「胃を守る」有効な方法なのです。

嚙まないと近視になる

最近の若者は身長・体重こそ増え、見た目の体格はよくなっていますが、視力は衰えてきています。

平成15(2003)年度「学校保健統計調査」(文部科学省) によれば、裸眼視力1.0未満の割合は、小学生、25.6%、中学生47.8%、高校生60.0%。また、視力矯正が必要とされる「0.3未満の人」の割合も、年齢が進むにつれて急上昇していることが明らかになりました。

これについては、ここ数年、視力を調節する筋肉の問題、眼球が収まっている眼窩の骨の形の問題などからアプローチされており、両方が作用して、視力の低下を招いているのだと考えられています。

噛むことと視力の関係性は、一見、無関係なようですが、実は密接な関係があります。視力の低下はよく噛むことによって向上させることができる可能性が高いのです。

眼球のレンズである水晶体は、見る対象と眼との距離に合わせ、薄くなったりふくらんだりして、ピントを合わせます。そのピント合わせに大きな役割を果たしているのが毛様体筋という筋肉です。

水晶体は、毛様体筋の働きによって変形します。遠くを見るときは毛様体筋が緊張して水晶体は薄くなり、近くのものを見るときは毛様体筋が弛緩して水晶体は厚くなります。

噛むことと視力の関係について、この毛様体筋からアプローチしているのは、神戸山手大学の島田彰夫教授です。

子どもたちは噛まなくなっている、噛まないと顔の筋肉が衰える、すると水晶体が調節機能不全を引き起こす、その結果、視力が低下する、と島田教授は考えました。毛様体筋が、噛まないことで衰えているというのです。言い換えれば、噛むことで顔の筋肉が鍛えられ、水晶体の調節機能が高まり視力がよくなる可能性が高いというのです。

もう1つ、東京大学の比較人類学の遠藤万里先生のグループによる注目すべき研究があります。遠藤先生のグループは、よく噛んでいる人と噛まない人では眼窩の形が変わることに注目しています。

頭蓋骨の中で、眼球がすっぽり収まる穴が眼窩、眼窩の下の部分は上顎骨で、上は前頭骨や側頭骨など多くの骨でつくられています。

よく噛むか噛まないかで、これらの骨の形が変化し、眼窩の形が変われば、視力にも悪影響を及ぼすわけです。

さらに、京都大学再生医科学研究所の堤定美教授は、噛む力が弱くなると、あごの張り(「エラ」) が減少し、小さなあごになることを証明しました。

実際、最近の若者のあごは華著になり、歯並びが非常に悪くなってきました。しかも、これは下あごだけでなく、当然、上顎骨や頭蓋骨全体の変形にも関係します。すると眼萬の形も変化するので、近眼の原因になる可能性があるとも、堤教授は報告しています。

人間の体は全体が影響しあうひとつのシステムであることが、「噛むこと」と視力の関係にもおいても、顕著に示されています。食物をしっかり噛む習慣をつけて、よく「見える目」を取り戻してください。

よく噛むことで体の運動機能が向上する

噛むことで健廉を取り戻した実在の人物を紹介です。アメリカに住む富裕な時計商人、ホイレス・フレッチャー氏(1840 〜1919年)の話です。

彼は自らの実体験から発見した噛む健康法「フレッチャイズム」で健康を取り戻し、晩年は世界中を回って、この健康法を提唱しました。

彼は、体重が100キロ近くあったにもかかわらず、運動もせず、コックを5人も雇って世界中の美食を堪能するというぜいたくな暮らしをしていました。40歳のころになると、毎日だるいなど、体にさまざまな症状が現れてきましたが、それでもまだ、グルメ三昧を続けていました。

しかし、健康に不安を感じたフレッチャー氏が、ある日精密検査を受けたところ、医師からさまざまな病気になりつつあると指摘されました。そんな彼がある老人から伝授されたのが「噛む健康法」 だったのです。

それは、実にシンプルな2項目だけからなっていました。「本当にお腹が空いたときだけ食事をとる」「よく噛んで食べる」という2つだけだったのです。

フレッチャー氏は半信半疑で、一口で30回、食物がドロドロになるまで噛むことを心がけました。それが効を奏し、なんと5か月で30キロも減量でき、みるみる体力を回復しました。その結果、外で運動することにも意欲がわき、自転車競技に参加するほどになりました。

この噛む健康法は、大学の栄養学の権威者にも証明されて「フレッチャイズム」と名づけられました。フレッチャー氏のケースは学会でも発表され、のちに著書も出版した彼は世界的に有名になりました。

よく噛むこと」で全身の体力がついたり、意欲までわいてくるのはとても不思議なことです。噛むことがエネルギー代謝を促進し、全身の新陳代謝を促進させて、体力を高めているのです。それだけでなく、噛むこと自体が実際のさまざまな運動機能を向上させているのです。

ガムを噛む前としっかりと噛んだあとで体力測定をしてみるという実験を行ったところ、興味深い結果が出ました。背筋や握力などの数値がいずれも上昇するのです。脳の活性化についても同様です、脳中枢による運動ではなく、脊髄で行われている、いわゆる反射運動も大幅に向上します。

しんどいときには、「歯を食いしばってがんばろう」などといいますが、これは単に言葉のうえの話ではありません。実際に歯を食いしばることで、運動機能が向上し、いわゆる火事場の馬鹿力が出るようになるのです。歯を食いしばったほうが、よりがんばれるということです。

日本のアマチュアレスリング界の黄金期を築いた立役者である故・八田一朗氏は、かつて選手たちに割り箸にタオルを巻いたものを噛ませ、自分の持っている力を日ごろから最大限引き出す練習を取り入れたそうです。噛むことで運動機能が向上することを経験的に知っていたのでしょう。

もちろん、私たちはふだんの生活で噛むことにそこまでの効果は期待しないかもしれません。しかし、私は日々の食事を、短距離走の選手がゆっくりと時間をかけてジョギングをし、体つくっていく様子としばしばイメージをダブらせます。つまり、私たちが毎日の食事のときによく噛んで食べるのは、いざというときに全力投球ができるよう準備しているのです。

咀嚼=ダイエット

この「よく噛む」ことによるダイエットは、実際に臨床的にも応用されるようになっています。

糖尿病性肥満症患者の治療に実施している「岨噛法」がそれです。一般に、肥満タイプの人に共通するのは「早食い」、つまり「噛まないで飲み込み食い」をしていることです。単に口の中に食物を入れてから飲み込むまでの時間が短いというだけではありません。箸を動かすスピード、噛むスピード、飲み込むスピードも速いのです。当然、よく噛んで食べることもできません。

このような状態では、神経性ヒスタミンが量産されないため、満腹中枢は刺激されず、余剰エネルギーも消費されないので肥満になる、という悪循環に陥るわけです。

糖尿病と診断され、生活習慣の改善が迫られた場合でも、早食いの習慣を改善するのは至難の業です。いくら私たちが「よく噛むことが大切ですよ」「一口30回噛みましょう」と力説してみても、ふだんから早食いに慣れている患者さんが実際に訓回噛むのは、そう簡単なことではありません。

噛むことの効果を本当に理解してもらい、習慣化するように医療者が誘導することが必要です。その方法の1つが「咀嚼」なのです。

この咀嚼法というのは、食事の際に、1口ごとに30回噛めたら「○」、噛めなかったら「×」というように、1週間分の食事を記録してもらう方法です。

ほとんどの肥満症患者は早食いの傾向にありますから、余裕があって熱心なときには噛みすぎるほどですが、意識が集中できないときには、まったく噛まずに飲み込んでしまいます。咀嚼法導入の当初は、一口で口に含む量を多くするなどの工夫をしますが、もともと食事時問や咀嚼回数そのものが極端に少ないので意識改革からはじめる必要性があるのです。

最初は、「いつものスピードで食べたい」とか「あごが疲れます」といった訴えが多く、記録用紙には「×」が並びます。しかし、徐々に「○」の数が増えてきたことを自分の目で確認できるようになると、意欲的によく噛む習慣を実行するようになります。

すると、「不思議ですね。以前より少ない食事量でお腹がいっぱいになります」という驚きの声が聞かれます。咀嚼習慣が身についた段階では「薄味が好みになりました」とか「油っぼいものを食べたくなくなった」などの変化も生じ、糖尿病の食事療法のうえでも大変有効な連鎖反応が現れます。

また、食前にガムを5~10分間程度噛んでから食事を開始すると、いっそう良好な結果が得られます。この記録は、糖尿病患者でなくても、ちょっと肥満が気になる高血圧や高脂血症などの生活習慣病予備軍の方にも有効です。

一口30回の岨噛を習慣づけるためにも、食事ごとに一口30回噛めたかどうかを記録してみることをお勧めします。

よく噛んで食べても食べ過ぎてしまったときは、

糖質カット酵母「パクパク 酵母くん」
https://1088note.com/g-cut/

肥満防止効果、ダイエット効果

「噛む」ことによる筋肉の動きやそれに伴う刺激などの感覚情報は、すべて脳に伝達されます。食物などを噛み始めると、それに伴う感覚情報が、まず歯を骨にくっつけている歯根膜などで捉えられ、脳の三叉神経中脳路核という中枢に人力されます。

すると、隣接する後部視床下部が刺激されて、大量の神経性ヒスタミン(脳内の神経と神経を連絡する化学伝達物質の1つ)という物質の生成が促進されます(。この「神経性ヒスタミン」という物質の生成が、肥満防止のカギです。

  1. 満腹中枢を刺激して、食べすぎを防ぐ この神経性ヒスタミンによって作動する神経回路が満腹中枢(視床下部腹内側核) を活性化することは、多くの研究者によって確認されています。

    したがって、食物を噛むという行為そのものが満腹中枢を刺激しますから、よく噛んで食べれば「もう、お腹がいっぱいになった」という感覚が生まれ、食べすぎを防いでくれるのです。

    しかし、よく噛まない「早食い」をすると、この満腹中枢は作動しません。ですから、ファストフードなどをよく噛まないで腹がふくれるほど食べても、ズボンのベルトを凄めて、さらに食べ続けてしまうのです。やわらかい食物は、よく噛まないでも飲み込むことができますから、とくにこの傾向が顕著になります。

    「好物は別腹」、「脳がまだ食物を欲しがっている」とか「おいしくてどうにも止まらない」という状態は、明らかに満腹中枢が働いていない証拠なのです。

    一方、満腹中枢は、別のルートでも活性化します。やはり、噛むという行為により、肝臓や筋肉などに貯蔵されている糖分(グリコーゲン) がグルコースという形で血液中に放出され、血糖値が上がります。

    この信号が脳に届くと、満腹感をつくり出すさまざまな化学物質が増えて、脳の満腹中枢を活性化し、食べすぎをストップさせてくれるのです。ネコの満腹中枢を破壊する実験をしてみると、満腹感が得られず、食物を食べ続けてしまい、子犬ほどの大きな身体になってしまいます。「満腹を感じる」ことの大切さを考えて欲しいと思います。

  2. 内臓の脂肪を分解する また、噛むという行為は、体に蓄積されている栄養、とくに体脂肪の分解を促進させ、活動のためのエネルギーに転換することを可能にする「引き金」として、肥満防止に有効であることがわかっています。

    激辛、アツアツの鍋焼きやラーメンを食べると、誰でも汗ばみます。食物の温かさやトウガラシのカブサイシンなどが体温を上昇させるからです。しかし、冷麺や冷やし中華などを食べても、体が温まる経験をしたことはないでしょうか?

    実は、どのような食事をしても、よく噛むだけで、酸素消費量が急上昇して、体が温まるのです。これを、「食事による体熱産生反応」と呼びます。噛むことによる感覚情報はすべて脳に伝達され、神経性ヒスタミンが量産されることはすでに述べました。

    この神経性ヒスタミンによって、交感神経の活動を調節している脳中枢が活性化され、全身のエネルギー代謝が促進されます。したがって、冷たいものを食べても酸素消費量が増加し、体温も汗ばむほどに上昇するのですパrト体内の脂肪が燃焼して消費エネルギーが多くなり、体内に蓄積されるエネルギーが少なくなりますから、贅肉が取れてスリムな体に向かうというわけです。

    カナダのケベック大学のダイアモンド教授らは、イヌを使って食事による体熱産生の実験を行い、食後1〜2時間にわたって、大変興味深い体熱産生の変化を発見しました(。このエネルギー産生には咀嚼をしたことで急上昇する第1相(食後40分以内)と、食物が胃に到達してからゆるやかにエネルギー産生が増加する第2相(食後40分~12 0分) とがあります。

    とくに、第1相のエネルギー産生は、脳にある満腹中枢を働かせる信号になります。よく噛んで食べれば、体熱産生反応が高くなり、消費エネルギーが多くなります。噛まない、噛めない食事をすると、体熱産生は低く、消費されるエネルギー量が少なくなり、余剰エネルギーが体内に蓄積されて、肥満傾向になります。

    人間でも同じで、現代っ子の噛まない食べ方は体熱産生が低く、肥満になりやすくなります。また、反対に普通の食事( アツアツでない) のあと、30分程度で体が温まり、タオル、おしぼりで顔を拭きたくなる程度に汗ばんだら、それはしっかり噛んだという証です。

この原理を知っていれば、次のような応用もできます。 たとえば、山で食物を持たないで遭難した場合を想定してみましょう。

このようなと き、動き回りすぎて体力を消耗させないこと、体温の低下を防ぐこと、眠らないことが 大切だとよくいわれます。 そこで、私からのアドバイスです。食物がなくなったら、まず、ベルト、タオル、靴 ひもなど、噛めるものなら何でもいいですから、それを「懸命に噛むこと」です。すると、 「噛む」ことで、体熱産生反応の第1相を作動させ、自分の体内に備蓄している脂肪や 糖質を燃焼させて、体温の低下を防ぐことができるのです。

このような場合、肥満体の 人のほうが、体内に脂肪という「携帯食」をたくさん持ち歩いているのだといえます。 同様の観点から、人間以外の動物に目を向けてみましょう。 胃袋が空っぽの飢えた動物は、獲物を見つけて跳びかかっていきますが、相手に噛みつくことによって、体内に蓄積されている糖質や脂肪を血液中に放出させ、激しい運動 を可能にするエネルギーをつくり出しています。この際に消耗した栄養物質は、相手に勝ち、それを食べることによって補給することができるわけです。

このように、噛むことは、自分で自分の体を食べること、といってもよいかもしれません。最新の研究では、大分医科大学名誉教授の坂田利家民らが、阻噛が脳内のヒスタミン神経系に作用し、これによって体内の内臓脂肪が燃えることを明らかにしています。

神経性ヒスタミンは、重要な生理活性物質(身体の正常な働きを促す物質) として炎症や免疫系の調整などにも影響を及ぼしますが、「噛む」ことによって神経性ヒスタミンが量産されると、満腹信号として働くだけでなく、食事の速度を調整する(がつがつ食べなくなる)ことがわかりました。

さらに、神経性ヒスタミンは交感神経の中枢核に働き、末梢でのエネルギー代謝を促進して、白色脂肪に作用することにより、脂肪を分解してくれることも明らかになっています。白色脂肪というのは、全身にありますが、とくに下腹部、お尻、太もも、背中、腕の上部、内臓の周りなどに多く、体内に入った余分なカロリーを中性脂肪の形で蓄積する働きがあります。体重がそれほど重いわけではないのに、下腹部やお尻などが太っている体型の方は、この部分に白色脂肪が多いことが原因です。

このように、噛むことで量産された神経性ヒスタミンは、食欲抑制、内臓脂肪分解に寄与し、肥満防止に大きな効果があるのです。しっかりよく噛んで食べることは、特別なダイエット法を講じることなく、また特殊な健康器具を使うこともなく、誰もができる一番簡単な究極の健康法であり、究極のダイエット法といえるでしょう。

しっかり噛むだけでスレンダー はしっかり噛むことでダイエットになる理由がわかります。

骨をしっかり働かせる

骨の密度が低下し、ちょっと転んだだけでも骨折してしまうというのでは、健康な生活は望めません。そこで、カルシウムの重要性が見直され、カルシウム入りの食品やサプリメントがちょっとしたブームになっています。

このような風潮を冷静に見ると、現代人の安直さを感じ、残念でなりません。カルシウムが不足して骨が弱くなったのだから、カルシウムを補えばいい... 。確かに小学生でもわかる理屈です。

しかし、本当にそれでいいのでしょうか。たとえば、寝たきりの高齢者にカルシウムを大量投与すれば、シャキッと立ち上がって歩けるようになるのでしょうか。ことはそう簡単ではありません。いくらカルシウムを摂取しても、骨のほうに「その気」がなければ何の役にも立ちません。骨が「その気になる」とはどういうことでしょうか?

それは、骨がカルシウムを受け入れる態勢をつくつているということです。そのためには、「運動」、つまり骨をつくる細胞に物理的な力(ストレス)が加えられることが必要なのです。昼食を立ち食いそばなどですませ、いくらなんでもこれでは体に悪いだろうと思い、カルシウム飲料やサプリメントで補う。これでは気休めになっているだけです。「しっかり噛んで食べないし 運動もしない」という悪循環を断たないと骨は育ちません。

よく噛んで食べれば、「さあやるぞ」という元気が生まれ、体は動くものです。そして、動いているなかで、骨もその気になってきます。骨にも代謝があり、だいたい90日くらいで半分ほどがつくり替えられます。このくらい激しい代謝をするわけですから、運動で負荷を与え、カルシウムなどをうまくとるようにすれば、骨の密度は高くなり、丈夫な骨になるわけです。

カルシウムが腸で吸収されるためにはビタミンDも必要です。これは小魚などに豊富に含まれています。小魚をしっかり噛んで食べていれば、サプリメントに頼らなくてもすむわけです。また、骨をつくっているのはカルシウムだけではありません。タンパク質やリンも含まれています。

サプリメントの補給で満足してしまうのではなく、おいしい食事を豊富に食べるほうが骨のためにはよいのです。体を動かしていれば食事はおいしくなります。そして、よく噛んで、あれこれの食材をまんべんなくとれば、カルシウムはもちろん、タンパク質やリンなどの骨をつくる成分は十分にとれ、骨粗鬆症も予防できるのです。骨粗鬆症は「予防にまさる治療法なし」とされる病気です。

よく噛んで、おいしく食事をして、体を動かす... 。食生活と生活習慣を見直すことで未然に防ぐことができるのです。そして、将来の骨量の目減りを踏まえ、若いころから十分な量の骨を貯えておくことが最大の予防です。骨の若さを保つため、今から密度の高い骨をたくさんつくっておき、「貯骨」を心がけましょう!

骨粗鬆症に食べたい食品
https://health-memo.com/?s=%E9%AA%A8%E7%B2%97%E9%AC%86%E7%97%87

骨粗鬆症は、これらの食材、食品をよく噛んで食べることが結局,いちばんの近道だったりするのです。

梅干し顔がつくられるのは

年齢を重ねるにつれ、人から「老け込みましたね。どこかお悪いのですか? 」とか、逆に「何で、そんなに若々しいの? 」といった何気ない問いかけにギクッとしたり、うれしく思ったりした経験はありませんか?

老化の徽候は誰にも避けられないもので、顔にもはっきり表れてきます。とくに、お年寄りになると、口元がくぼみ、唇を中心として縦敏が放射状に増えてきます。これは「老人しわ性顔貌」と呼ばれ、通称、「皺顔」とか「梅干し顔」ともいわれています。

実は、この皺ができる大きな原因が歯にあるのです? 歯がなくなると、歯を支えていたあごの骨が大量に消失し、皮膚にたるみが生じ、これが黒褐色の皺になるのです。

ですから、お年寄りのあごの骨を守るためにも、バランスがとれた栄養物質やカルシウムをとるだけでなく、よく噛む習慣が大切であり、これらが皺の目立たない若々しい顔を維持する秘訣といえます。

寝たきりの方にも同じことがいえます。介護する場合、手足のストレッチやマッサージと同様に、しっかり「噛む」ことも、せめて歯とあごを守るためにも心がけておきたい重要なポイントです。

また、高齢者の方のなかには、はっきりとした発音がしづらく、言葉がこもりがちになる方がいらっしやいます。しかし、噛むことで、あごの骨がしっかりとし、そのまわりの筋肉がつくと、表情だけでなく、言葉も明瞭になります。

噛む行動と話す行動では使う脳の中枢は異なっているので、噛むことで言葉に関する脳の働きがよくなることまでは期待できませんが、噛んで飲み込むまでの問に、唇、舌、のどを使った複雑な運動が行われるために各部位が鍛えられるので、言葉を発するときも、口のまわりの各器官が動かしやすくなります。だから、「よく噛む」と、はっきりとわかりやすく話すことができるようになるのです。

あごの骨が強化される

よく噛むということが歯によい影響を与えることがわかりましたが、あごの骨も、「噛むこと」によって細胞に力を加えると、細胞の新陳代謝が活性化し、活発に栄養やカルシウムを摂取し始め、密度の高い丈夫な骨をつくり、強い骨になります。

歯と同じく、よく噛む人はあごも丈夫になり、噛まない人はあごも弱くなるのです。そして、歯がなくなると、あごの骨はもろくなります。このように、運動によって骨に「力」が加えられると骨の細胞はたしかに活性化され、さらに特定のホルモンが与えられると、骨の細胞の活動が極めて効果的に促進されることが明らかになりました。

しかし、栄養素やホルモンなどが十分に与えられても、適切な運動がなければ、強い丈夫な骨は形成されにくいことを忘れてはいけません。

カルシウムの場合なら、運動をしなければ、その土台となるコラーゲンなどがつくられません。したがって、寝たきりや運動嫌いの人は、骨の形成にとって非常に不利な状態にあるといえます。要するに、細胞に力が加えられてはじめて、骨をつくる細胞がカルシウムを受け入れる態勢になるのです。

その時点でカルシウムを摂取しなければ、カルシウムは効率的に骨になることはできません。骨や歯の健康を維持するためにも、カルシウムや栄養の摂取だけでは不十分であり、よく噛むという物理的な力が非常に大切であるという科学的な根拠が提供されています。

噛む力が健康な歯にも影響する

よく噛むことにより、物理的に十分な力があごの周辺の細胞に加わると、歯があごの骨にいっそう強くくっつくようになり、歯が丈夫になることが、さまざまな実験から明らかになっています。

まず、神奈川歯科大学では、ウサギの歯にバネを装着し常に歯に物理的な力がかかる状態にして実験をしてみたところ、骨芽細胞(骨の表面にあって骨をつくる細胞) への栄養( コハク酸)の取り込み量が増加していることがわかりました。つまり、栄養とまったく関係のないバネの力が、栄養の摂取量を増加させたのです。

今度は逆に、歯に加えられる力を減少させて実験を行ってみました。この実験にはラットを使いました。ラットの臼歯の噛み合わさっている部分を削り取り、噛み合わせができないようにしてみたのです。すると、歯とあごをつなぎ合わせている歯根膜細胞の合成能力は12時間で約3分の1に低下し、3日間で、細胞の合成能力はほとんど消失してしまったのです。これは、3週問たっても回復しませんでした。

以上の実験の結果をまとめると、次のようになります。歯に物理的な力を加えると、あごの骨の表面で骨をつくっている骨芽細胞が栄養を積極的に取り込もうとして、骨をつくる作用が活発になります。反対に、歯に加えられる力がなくなると、あごの骨と歯をつなぐ役割を果たしている歯根膜細胞の糖合成がされにくくなるのです。

つまり、歯に物理的な力が加えられれば、歯とあごの骨はより強く結びつき、力が加えられなければ、歯とあごの骨との結合皮が弱くなり、歯がぐらぐらしてくるのです。

ヒトの細胞では、次のような実験例があります。

神奈川歯科大学では、治療目的で抜いた歯の歯根の表面から、鋭利な刃物で歯根膜を採取し、この歯根膜を培養しました。約10 日後には歯根膜細胞は培養容器の壁面いっぱいにまで増殖して、とまりました。

さてここで、この細胞に力を加えてみました。すると、はじめはテニスボールのような形をしていた細胞から、足が生えるようにして突起が伸びてきて、療養容器の壁面に密着したのです。これは、細胞がヒトの体の中にあるときに活動しているのと同じ形なのです。つまり、歯に力を加えることによって、歯根膜細胞から突起が伸び、その先端に接着物質であるタンパク質( フィプロネクチン) がつくられて、歯とあごの骨が強力にくつつけられることが世界で初めて証明されました。

これら力を加えた細胞培養液には、歯3根膜細胞を呼び集める性質を持つ物質が合成されていることも明らかにしました。もう明らかでしょう。

噛めば噛むほど、歯とあごの骨は、強力にくつつくようになるのです。歯をしっかり支える丈夫な歯根膜をつくるためには、「よく噛む」というメカニカル・ストレス(機械的応力) が必要なのです。このように、よく噛む習慣を持つ人の歯はますます丈夫な歯になり、噛まない人の歯はどんどん弱い歯になっていくのです。

なぜ、しっかり「噛む」のか

日本もその昔、「所得倍増論」で国民的人気を集め、「貧乏人は麦を食え」というフレーズで怒りを買った日本の宰相がおられました。

私は「現代人は硬めに炊いたご飯、あたりめ、たくあんを食え」とあえて提唱します。

何も、硬めに炊いたご飯やたくあんに固執するつもりはありません。高齢者の方々も噛めないからと、好きだった硬めの食物をあきらめないでください。もちろん、若者と同じょうな力とスピードで噛むことはできませんが、焦らずゆっくりと時問をかけて噛めばよいのです。

若い人や子どもも同じです。よく噛む習慣は、丈夫な歯、丈夫なあごの骨をつくり、健康な生涯を送る基本条件なのです。

では、よく噛むことによって歯と骨が強化されるメカニズムについてです。

生物の基本単位である細胞が活動するためにはタンパク一質、嘩質、脂肪、ビタミン、ミネラル、ホルモンといった栄養が必要です。しかし、これだけでは決して十分ではありません。細胞が本来持っている働きを発揮するためには、栄養だけではなく細胞に加えられる機械的(物理的)な力が必要であることがわかってきました。

たとえば、噛むときには、食物は強い力(最大で1㎡当たり体重の2〜3倍kg) で砕かれて細かな粒子になり、胃に飲み込まれていきます。この噛む力は噛み合っている歯全体に加えられ、歯を支えている歯根膜繊維(コラーゲン繊維。歯を骨につなぐ繊維)やあごの骨の細胞に伝達されます。

これらの力はさらに、顔の筋肉を介して前頭骨、側頭骨、頭頂骨など頭蓋骨全体に次々と伝達され、骨の中にある細胞を圧迫したり牽引したりします。すると、骨をつくる細胞の新陳代謝が活性化され、活発に栄養やカルシウムを摂取して、頭や顔全体で密度の高い丈夫な骨をつくり始めるのです。

逆に、虫歯や歯周病のために十分に噛めない場合、あるいは歯がなくなってしまった場合には、歯の周囲の骨は急速に消失してしまいます。つまり、栄養をとっても、噛むことによる力が加わらなければ、栄養分が細胞に吸収される効率が上がらず、活発に骨をつくらなくなるのです。

ちなみに、機械的(物理的)な力( ストレス) を加えると細胞が活性化するということを研究する学問のことを、「メカノサイトロジー」と呼称し、多くの研究をしてきました。「メカノ」とは機械的あるいは物理学的という意味です。そして、「サイトロジー」とは細胞学という意味です。

噛まない・噛めない現代人

最近は、スナック菓子やファストフードで育った人や、やわらかくおいしくなければ食べないという軟食グルメ志向の人が増えてきているのですが、このような食物は、もともとやわらかいですから、「噛む」のに苦労することはありません。ですから、噛む回数は少なくてすみます。だとすると、現代人の「噛む」能力は昔の人よりも低下してきていることが考えられます。

これを調べるために、私たちが現代と過去の食事を比較する調査実験を行ったところ、「現代人は弥生時代の6分の1 しか噛んでいない」ことが推定される結果が出ました。

実験では、弥生時代、平安時代、鎌倉時代、江戸時代(初期、後期)、戦前、現代の、それぞれの時代の食事を再現し、20歳代の学生たちに食べてもらい、それぞれの岨囁回数と食事時問を測定しました。

弥生時代(2〜3世紀ごろ)の食事は「魏志倭人伝」の記録を参考に復元しました。当時は、クリ、クルミの乾燥したもの、カワハギの干物、アユの塩焼き、ハマグリの潮汁、ナガイモの煮物、ノビル(野生のネギ)などをおかずに、主食には「もち玄米のおこわ」を食べていたようです。これらは、もしかしたら幻の女王、卑弥呼も食べていたかもしれません。

いずれの食材も加工や調理はわずかです。その中で、蒸したての玄米おこわは数分のうちに鉛玉のように硬くなります。箸でもつかみにくいおこわをよく噛んでドロドロ状態にし、飲み込めるまでにすることの大変さに、学生たちは驚いていました。最初は砂利を噛む面もちで戸惑っていましたが、よく噛んでいくうちに甘味や玄米独特の風味を感じたためか、「案外いける」と好評でした。この食事の阻噛回数は3 990回、食事時問は51分(13 02キロカロリー) でした。

このような方法で調査実験を行い、各時代の測定結果を出しました。そして次に、現代食として、ハンバーグ、スパゲッティ、ポテトサラダ、コーンスープ、プリン、ロールパンなどを選んで食べてもらいました。学生たちは喜んで食べ、食後、まだ食べ足りないという表情を見せていました。この現代食の岨噛回数は620回、食事時間は1分(2025キロカロリー)、現代人の咀嚼回数は弥生時代の6分の1以下、食事時問も5分の1という結果となりました。

戦前の家庭食と比較しても、歴史的にはわずか数十年という驚くほどの短期間で、現代人の噛む回数と食事時問が、ともに2分の1以下に激減したという事実は、本当に驚くべきことです。

さて、私たちはさらに、現代日本人について、一口当たりの岨噛回数を調査してみました。その結果、小学生・大学生の平均値は10.5回でしたが、噛まない人はなんとわずか2〜3回、あるいは離乳食を食べるように舌でこねてから飲み込んでしまう(岨嘱しない)人もいました。

肥満傾向の人にはこの噛まない早食い癖が顕著に見られます。以上、述べてきましたように、戦後日本の社会構造の急激な変化は、家庭の食生活までをも激変させ、スナック菓子やファストフードが氾濫し、子どもから大人までがグルメな軟食を追求する飽食の時代が到来しました。

その背景には「噛むしつけ」が家庭から消滅したという現実があります。実は、この現象は日本だけの問題ではなく、経済的に発展を遂げた欧米先進国や急速に近代化する発展途上国が抱える共通課題なのです。それぞれの国で伝承的に築いてきた文化や食環境を放棄したことによる生活習慣病の顕在化に、今やっと世界の人々が気づき始めています。

噛むという行為は、顔の筋肉を動かし、細胞に物理的な力を加えるほか、歯を使って食物を細かく砕き、唾液と混ぜるなどの複雑な作業です。これらの複雑な動きから、先ほどご紹介した「卑弥呼の歯がいーぜ」でまとめたような驚くべき効用が生み出されるのです。

噛むことで得られる8つの効果

私たちは、病気などで食事ができないほど衰弱すれば、点滴を受けたり、流動食をとったりして命を永らえることができます。

病気でなくても、ちょっと疲れると栄養補給ドリンクやサプリメントで簡単にすませてしまうことも日常的になっています。ふだん食べている食事を振り返ってみても、やわらかい食品が増え、よく噛まなくても飲み込め、栄養も吸収されやすいようになっています。つまり、「噛む1食べる」という行為を省略しても生き延びることができるのです。

しかし、これでは栄養豊富なやわらかい食物によって生かされているにすぎません。獲物を獲る動物よりも、立ち尽くして栄養分を吸収する植物に近いでしょう。

最新の研究では、食物を食べる「噛む」という行為は、私たちが考えている以上に健康生活に欠かせない大切な行為であることが明らかになってきました。歯、舌、ほお、のど、そしてそれらの周囲の筋肉などの岨囁に関連する器官と、それを制御する中枢神経とは密接に関係しています。したがって、「噛む」という行為は、単に食物を胃に流し込むだけでなく、その刺激が全身のいろいろな機能を活性化するのに重要な役割を果たしているのです。

では、具体的に、「噛む」ことによってどのような効果があるのでしょうか。その効果をわかりやすく8つの項目にまとめた標語をご紹介しましょう。それは「ひみこのはがいーぜ(卑弥呼の歯がいーぜ)」です。この標語は「噛む」ということの重要性を再確認し、健康な生活を送ってもらえるように、考えられたものです。

「ひ」
肥満を防止(満腹中枢に働きかけて食べすぎを防ぐ)
「み」
味覚の発達(おいしさがよくわかるようになる)
「こ」
言葉の発音がはつきり(はつきりとした言葉になる)
「の」
脳の発達(噛むことは脳を活性化する)
「は」
歯の病気予防(虫歯や歯周病になりにくくなる)
「が」
がん予防(唾液の効用によってがんを予防できる)
「い」
胃腸の働きを促進(胃腸の負担を軽減する)
「ぜ」
全身の体力向上と全力投球(力いっぱい仕事や勉強ができる)

これが8つの効果ですが、「噛む」効果はここに掲げたものだけにとどまりません。認知症(痴呆症) 防止や視力改善などの効果もあります。

また、よく噛むことによって分泌される唾液にもいろいろなすばらしい効果があります。このように噛むことは、人間の体にとって、一般に考えられているよりはるかに大切かつ重要な意味を持っているのです。

生活習慣病がこれだけ日本で急増してしまった背景には、食生活の変化があります。多くの家庭では「早く食べて、学校へ、塾へ、会社へ」と時間に追われて早食いせざるを得ない状況が蔓延しています。

やわらかくておいしいものでなければ食べないという軟食グルメ志向も年々強くなってきているようです。そして、間食は食べ放題となってしまった結果、朝昼晩の定時の食事どきに空腹感がない子どもや若者たちが多くなりました。

さらに、一家のだんらんで食卓を囲むことが少なくなり、家族の食事時間がバラバラの「孤食化」傾向が顕著になってきたのです。

実は、これらすべてが生活習慣病の引き金になっているのです。かつて子どもは、食事中におじいちゃん、おばあちゃん、あるいは両親から「よく噛みなさい」「好き嫌いはダメ」「間食は控えめに」などと口うるさくいわれてきたものです。これらは、どの家庭でも大切にした日本の伝統的な「食のしつけ」でした。それと同時に、懐かしくも頑固な親父(母親)の説教のオマケもあったことでしょう。

食卓は、親子がともにコミュニケーションをとり、子どもにとっては倫理観が養われる大切な場であったのです。ところが、今では、昔から私たちの祖先が大切にしてきた食の経験則、「何をどのように食べれば元気に生きられるか」のほか、生きるうえでの人生観や考え方を語り継ぐという「しつけ」を忘れた家庭が増えています。

その結果、正しい食習慣を学習する機会が与えられずにスナック菓子やファストフードで育った若い世代を増やし、やわらかいグルメ食を好む現代人を増やすことになったのです。やわらかい食物が好まれる傾向や早食いは、よく噛まないで食べることにつながります。

そして、よく噛まないで食べると、満腹感が得られず、そのために食べすぎてしまい、肥満へと直結するのです。

また、歯やあごが鍛えられないため、歯が弱くなり、以前にも増して噛まなくなります。さらに、顔の筋肉をあまり動かさないため、脳への信号の伝達が十分に行われず、脳が活発に働かないため、ストレスをためやすくなるのです。

その行き着いた先が、生活習慣病という現代人に特有の病気なのです。このように、家庭での「食のしつけの喪失」こそが、現在の国民病ともいえる生活習慣病をつくり出した「戦後最大の忘れ物」 といえるのではないでしょうか。

そして、「食のしつけ」の中でも重要なのが、「よく噛んで食べる」ことなのです。最近の研究で、食物をよく「噛む」という行動が、実は生活習慣病を予防するのに非常に役立っているということが科学的に解明されてきました。それでは、「よく噛んで食べる」と、どのような効果があるのでしょうか。

現代人特有の病、生活習慣病

日本は、昭和20(1945 年に終戦ですべてを失ったあと、わずか半世紀という短期間で飛躍的な経済成長を遂げました。

その間、政治経済、社会構造にとどまらず、家庭環境や人々の考え方(価値観)も大きく様変わりしました。この変化を医療面から見ると、かつては結核、肺炎、腸チフス、赤痢、コレラなど、さまざまな細菌に感染することによって起こる疾患が主な死亡原因となっていましたが、現在では生活習慣病(がん、脳卒中、心臓病、糖尿病、高血圧、肥満など) の増加が深刻化しています。

生活習慣病というのは、運動不足や睡眠不足、食べすぎなどによる肥満など、さまざまな悪しき生活習慣が引き起こす病気の総称です。

中でも、とくに肥満は、体の抵抗力の根幹である免疫機能を低下させ、健康を著しく損い、あらゆる痛気 にかかりやすくなります。

かつては肥満とがん(悪性腫瘍)の間にはあまり関係がないとされていたのですが、最近の研究では、肥満になるとがんの雁息率が高くなることも指摘されています。

具体的には、肥満は、男女とも大腸がんと胆のうがんを、女性では子宮体がんや卵巣がん、乳がんが、男性では前立腺がんなども合併しやすいとされています。

肥満の防止には、注意を払って払いすぎるということはないのです。生活習慣病は、病原菌が引き起こすものではありません。人間自らの生活態度がもたらす疾患です。それぞれが豊かで健康な人生を獲得するため、病気になってから新薬や名医に頼るのではなく、日常の栄養、運動、睡眠の自己管理やストレス解消など、今こそ自分にあった規則正しい生活習慣管理術を身につけることが非常に大切になってきているのではないでしょうか。

暴飲暴食で自分の命を破壊するか、生活習慣をコントロールして豊かな生涯を獲得するか、これは自分の健康に対する価値意識の問題であり、まさに、自分の死に様は自分で決める時代になったといえましょう。

現代人特有の病気